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「1位はないわな。ただ2位か3位は…」まさかの阪神1位指名・近本光司のドラフト秘話…ノーマークだった報道陣が混乱「大阪ガスのグラウンドってどこや」
posted2025/10/28 17:11
2018年のドラフト会議で阪神から予想外の1位指名を受けた近本光司と握手をする矢野燿大監督
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
JIJI PRESS
発売中のNumber1130号に掲載の[スピードスターの原点]近本光司「争奪戦は静寂の下で」より内容を一部抜粋してお届けします。
“ノーマーク”だった大阪ガスの近本光司
2018年の秋ほど、阪神ファンも番記者も「灯台下暗し」という言葉を噛みしめたことはないだろう。社会人野球の強豪、大阪ガスの元監督である橋口博一は実感を込めて、7年前の出来事を振り返る。
「極端に言うと『大阪ガスのグラウンドってどこや』から入ったんじゃないですか」
橋口は大阪・三国丘高、慶應大を経て大阪ガスでプレーした野球人で、この年が監督1年目。夏の都市対抗で初優勝を果たすなど、充実のシーズンを過ごすなか、10月25日のドラフト会議で170cmの小柄な外野手が指名された。なんと1位。しかも人気球団の阪神。当事者の橋口が「ビックリしました」と言うのだから“ノーマーク”だった報道陣がてんやわんやになるのも無理はない。いまや球界を代表するリードオフマンに成長した近本光司が、初めて世にその存在を知らしめた瞬間である。
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いったい、どこに行けば近本に話を聞けるのか。記者たちはGoogleマップで調べて、拍子抜けする。
えっ、こんなに近いんか……。
地図を見れば近本が日々練習する兵庫県西宮市の大阪ガス今津総合グラウンドの横に、緑色に染まる場所がある。阪神の本拠地、甲子園球場だ。2kmに満たず、車で10分もかからない。目と鼻の先で人知れず、将来のスピードスターは牙を研いでいた。
「1位はないわな。ただ2位か3位は…」
橋口はその日、今津のクラブハウスにある応接室で待機し、こう考えていた。
「1位はないわな。ただ、2位とか3位はあるかもしれん……」
近本は'17年に関学大から入社。この年が2年目だった。50m5秒8の脚力と勝負強い打撃が光り、'18年は5番打者として都市対抗で大活躍。首位打者と大会MVPにあたる橋戸賞を受賞した、社会人野球きっての実力者である。橋口が明かす。
「足が速くてパンチ力がある。ただ、メジャーな選手ではなかったものですから」
10球団ほどから調査書が届いたという。橋口の見立て通り、各球団のスカウトたちの評価は「2位クラス」だった。

