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もうひとつの「野村再生工場」…カープの若手に経験のすべてを伝える野村祐輔三軍コーチの現役時代になかった充実の日々
posted2025/08/04 11:05
春季キャンプでの野村コーチ。まだ36歳だけあって、現役選手のように若々しい
text by

前原淳Jun Maehara
photograph by
Sankei Shimbun
現役を引退して初めて迎える夏も野村祐輔は走っていた。
広陵高時代、夏の甲子園で全国にその名を轟かせ、明大を経て広島に入団。制球力と切れを武器に広島の3連覇を支えた。プロ初登板から昨季の現役最終登板まで211試合連続先発登板という記録を残し、現役を引退。今季からは広島の三軍コーチ兼アナリストとして、二軍寮に隣接する大野練習場を拠点に指導している。今も朝は早い。三軍練習が始まる2時間前からひとり走って、ストレッチ。選手と向き合う準備を整えている。
「年齢を重ねて体が動かなくなるまでは、いつでも動けるようにはしておきたい。キャッチボールの相手もできるし、選手に投げて伝えることもできますから」
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広島における「三軍」は、ソフトバンクなどのように試合を行える規模ではない。主にリハビリ中の選手や、二軍から離れて個別調整する選手たちを指す。野村のもとにやって来るのは、調子を落とした投手やフォームを崩した投手たち。いわば「再生工場」のような場所である。
「いい状態の選手が来るわけじゃないので、すごく難しさを感じます。気持ち的にも落ちているとは思うんですが、ここから這い上がって行かないといけないので、優しい言葉ばかりをかけてもいけない」
コーチとして最初にすべきこと
投手たちの投球は随時、映像で確認している。ただ、二軍コーチのように練習から付きっ切りで見ることはできない。野村のもとへやってきた選手に接するとき最初にやることは、修正点を指摘するでもプランを伝えるでもなく、選手の口から自身の現状を聞くことだという。
「どうなっているのか、どうしていきたいのか。それをもとに進めて行くようにしています」
選手自身が言語化できなかったり、現状を理解できていなかったりすることも少なくない。それでも対話から始まり、野村の意見も伝えながらビジョンを共有していく。
