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亡き父との約束から9年…柔道・斉藤立の母が明かす、思春期の息子を“立派な柔道家”に育て上げるまで「兄弟ゲンカの仲裁に包丁を持つことも…」
posted2024/05/16 11:02
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
JIJI PRESS
一流アスリートの親はどう“天才”を育てたのか――NumberWeb特集『アスリート親子論』では、さまざまな競技で活躍するアスリートの原点に迫った記事を配信中。本稿は、パリ五輪・柔道男子100kg超級の代表に選ばれた斉藤立(22歳)のエピソードです。亡き父に誓う、初の親子二代での金メダル……母・三恵子さんにここまでの歩みを訊いた。(全2回の2回目/前編から続く)
母のスマートフォンに残る、稽古映像
まさかの事態は、斉藤の全国少年柔道大会制覇から数カ月後に起こった。
2013年、父・仁さんが肝内胆管がんを患っていることが発覚。すでに手術を施すことができないほどの状態だった。母・三恵子さんは当時を振り返る。
「息子たちには早い段階で病気のことは伝えていました。『お父さんは絶対に治すから、お前たちは心配しなくてもいいよ』って。その後、かわいそうだからって2人には『お父さん、もう治ったから』と伝えていたんですけどね」
日に日に痩せていく仁さんの身体。110kgあった体重は80kgまで激減。それでも仁さんは時間が許す限り、柔道を教え続けた。自分の命を削るように、息子たちと向き合った。
「ひょっとしたらこれが最後になるかもしれない」
稽古の様子を映像に残そうと、三恵子さんは携帯電話で夫と息子を撮り続けた。
たとえ夫がいなくなっても、映像を通して、夫といつでも会えるように。息子たちが壁にぶち当たったり、何かに悩んだときに、大切なことに気付けるように。
9年が経った今も、その映像は三恵子さんのスマートフォンの中に大切に収められている。