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格闘技PRESSBACK NUMBER
「あの人は不格好なんだよ。でも…」武藤敬司61歳が明かす25年前、天龍源一郎とのベストバウト「武骨で、へそ曲がりな部分が天龍さんの魅力」
posted2024/05/19 11:03
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Shigeki Yamamoto
武藤に天龍からの言葉をぶつけると…
61歳の武藤敬司は今なおトレーニングを日課としている。
東京ドームで引退試合を行なってから1年を過ぎても、盛り上がった筋肉は現役時代とそう変わらない。
「どうしても(トレーニングを)やりすぎるところもあって。痛めている股関節に負荷をかけすぎると、主治医の先生に怒られちゃうよ」
いい汗を流してうまいワインと食事を嗜むためだという。
近況から本題となる1999年5月3日、福岡でのIWGPヘビー級タイトルマッチへ。「“どうしてあんなジジィとやんなきゃいけないんだ”という武藤の声が風に乗って聞こえてきた」という天龍源一郎の話をぶつけると、「覚えていない」と首をかしげる。なるほど正面からぶつかってくる相手に対して、スッとかわすファイトスタイルに似ている。
「そんなこと言ってねえと思うよ。ムタが1996年に天龍さんとWARの大阪で絡んで、これでもかっていうくらい集客できたんだよ。その流れもあってそろそろってことで(対戦が)決まったんじゃないかな。むしろ俺は逆に盛り上げたよ。ミスタープロレスってお互いに呼ばれていたから、その座を懸けようって言ったくらいだから。試合に勝ったけど、確か天龍さんに“譲る”ってコメントもしたんじゃないかな」
確かに天龍はミスタープロレスと呼ばれていたが、武藤はむしろナチュラルボーンマスターと称された時代。そんなツッコミはさておき、ベストバウトを宣言した天龍に対して武藤なりに表現のインパクトで上回ろうとしたことは何となくうかがえる。相手の土俵にまともに乗っからないのもまた武藤らしい。
リング上で天龍と対峙して、真っ先に感じたのが「間」だった。
「天龍さんと同世代になる新日本の先輩方で言えば、長州(力)さん、藤波(辰爾)さんは間を嫌うせっかちなプロレス。でも天龍さんは間を大切にするし、おおらかなプロレスをする。間ってお客さんに想像させるんだよ。次の技が来るとか、効いたとか効いてないとか、痛そうだとか。俺と天龍さんのプロレスが合うかどうかってまでは分からないけど、間というものを俺自身も大切にしていたっていうところはあるよね」
「天龍さんの打撃は痛いんだよな」
間は、言うなれば駆け引きでもある。天龍との読み合いは、武藤の探求心をくすぐる。ドロップキックも胸と思わせておいて低空で右ひざに打ち込み、苦悶の表情を浮かべさせている。技一つひとつの応酬にある間が緊張感と期待感を醸し出していた。