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東北に出現“ナゾの193cm剛腕”は何者か?「どこで情報仕入れたんですか…」練習試合に栗山英樹の姿「衝撃のフォーム」「仙台育英からプロ志望」
posted2024/05/11 06:00
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
Takahiro Kikuchi
仙台育英に謎の剛腕がいる――。
その噂は1年前から流れていた。公式戦に登板する機会はほとんどない。それでも、高校2年生にして140キロ台後半の剛速球を投げるという。
しかも、身長193センチ、体重95キロという恵まれた肉体の持ち主と聞けば、想像は無限に広がってしまう。いったい、どれほどのスケールの持ち主なのか。
「どこで情報を仕入れたんですか?」
その名を山口廉王という。
廉王と書いて「れお」と読む。かの名作『ジャングル大帝』(手塚治虫)のキャラクター・レオから命名されたという無名の大器。いつか見てみたいと願っていた。
4月上旬に仙台育英の須江航監督に問い合わせると、「どこで山口の情報を仕入れたんですか?」と苦笑されつつ、練習試合の予定を教えてくれた。5月2日に北照(北海道)との練習試合に山口が登板すると聞き、「行きます」と即答した。
北照には侍ジャパンU-18代表候補合宿で強烈なインパクトを残したドラフト候補左腕・高橋幸佑がいる。高橋と謎の剛腕がどんな投げ合いを展開するのか、是が非でも取材したかった。
試合当日、仙台育英多賀城キャンパスの真勝園グラウンドは独特の緊張感に包まれていた。バックネット裏には、侍ジャパントップチーム前監督の栗山英樹(日本ハムCBO)をはじめNPB球団の編成要職がズラリと並ぶ。高校野球の練習試合とは思えない光景だった。
そんななか、一塁側ブルペン前で待機していると飛び抜けて上背のある大男がやってきた。間違いない、この選手が山口廉王だろう。
山口と一緒にやってきた、頭ひとつ小さい2年生捕手の川尻結大が問いかける。
「北照のピッチャーって、日本代表候補なんですよね?」
山口は鷹揚な口調でこう返す。
「あぁ……、らしい。わかんない。あんまりくわしいこと知らない」
のちに本人に聞くと、「自分は本当に情報不足というか、他チームの選手のことを気にしていなくて……」と苦笑交じりの答えが返ってきた。
「期待外れか…」と思った瞬間
もしかしたら、今日の投球が自分の人生を左右するかもしれない――。そんな焦燥は微塵もなかった。
山口は川尻を相手にキャッチボールを始め、遠投、ブルペンでの投球練習と準備を進めていく。だが、本音を書くとこの過程で山口へのときめきは感じなかった。