それだけではない。コロナ禍以前、ムエタイの興行に集まる地元民はギャンブラーばかりだったが、現在はギャンブラーの入場を禁止し、選手に黄色い声援を送る若い女性を取り込む興行も出てきた。タイの国民的英雄ブアカーオ・バンチャメークを相手にラジャダムナンのビッグマッチ『RWS』（ラジャダムナン・ワールドシリーズ）のリングに上がった三浦孝太は、そのパイオニアといえる。

どんな一流選手をも上回る“圧倒的なスピード”

　まるで“ムエタイ版・明治維新”のような改革の嵐が吹き荒れる中、吉成はタイ人も認めざるをえない活躍を続けている。去る2月12日には東京でラジャダムナン認定のスーパーフライ級王座を奪取し、外国人選手として初めて3階級制覇を成し遂げた。

「勝った直後には、達成感がありましたね。以前から闘いたかった正規王者との統一戦だったので気合いの入り方も違いました」

2月12日、正規王者プレーオプラーオからダウンを奪い3階級制覇を達成　©Koji Fuse

　かつてムエタイは“底の見えない底なし沼”といわれるようなミステリアスな格闘技だった。ムエタイを支えるギャンブラーたちをまず第一に楽しませなければいけないため、豪快なKOよりも「競りまくって最後は僅差で勝つ闘い方」が主流だった。ゆえにKOを最大の美徳とする欧米のキックボクシングの価値観とは相容れないものが感じられた。

　そういった僅差のポイント勝負が主流の興行も健在ながら、前述したようにギャンブラーの入場を禁止した興行が出てきた現在は過渡期といえるだろう。吉成は「どっちのムエタイも好き」と語る。実際に彼の試合運びを見ると、どちらのニーズにも対応しているように見える。

　現在、吉成は怒涛の29連勝中で、そのうち23ものKOを奪っている。しかも、フィニッシュはムエタイルールならではのヒジ打ち、テンカオと呼ばれるカウンターのヒザ蹴り、ハイキック、三日月蹴りなど多種多彩。攻撃の精度は非常に高く、いずれも対戦相手の急所をピンポイントで突くものだ。

吉成名高のヒジ打ち　©Hiharu Takagi

「ムエタイはスキをつくらないように試合を組み立て、フィニッシュにつなげていく。KOにしろ、相手をしっかり見たうえで倒すケースが多いんです」

　多彩なテクニックだけではない。吉成の最大の持ち味は、タイのどんな一流選手をも上回る圧倒的なスピードにあるといわれている。

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