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「自分は賞味期限が切れた人間」引退・入江陵介が1年前に明かした“どん底時代”…それでも34歳まで水泳を辞めなかった理由「パリ行きたかった」 

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石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byKiyoshi Ota/Getty Images

posted2024/04/04 17:00

「自分は賞味期限が切れた人間」引退・入江陵介が1年前に明かした“どん底時代”…それでも34歳まで水泳を辞めなかった理由「パリ行きたかった」<Number Web> photograph by Kiyoshi Ota/Getty Images

現役引退を表明した入江陵介(34歳)。3月の日本代表選考会がラストレースとなった

「あの時は本当に厳しく、しんどい壁が立ちはだかっていましたが、それをうまく乗り越えたことで、その後はどんなことがあっても、精神的に“あの時よりはしんどくないな”と思えるようになっていました」

 2017年から3年間にわたるアメリカでの単身武者修行も成長の大きな手助けとなった。競技面だけでなく、生活面でも考え方が柔軟になり、視野が広がった。

「2009年はちょうど高速水着の頃の記録だったので、“過去の自分を超えたい”という思いで常にトレーニングしていました。そう挑んできましたが、やはり遠いタイムでもあって。それでも100mはその記録に少し近づけた部分もありましたし、年齢を重ねてもチャレンジすれば超えられるというところを自分自身が体現して、若い選手たちに伝えていければいいなと思っていました。その記録(日本記録)に苦しんだ部分はもちろんありますけど、ただその記録があったからこそ、トレーニングや厳しいことに耐えてこられたんだと思います」

「19歳竹原に敗れ、嬉しい気持ちもあった」

 ここ数年は、若手選手の“壁”となって立ちはだかってきた。2009年に当時大学2年生の入江が樹立した100mの52秒24、200mの1分52秒51という日本記録は15年経った今も破られていない。日本選手権では昨年まで100mを10連覇。200mでも2007~2016年に10連覇を達成している。

 入江は引退するが、彼が残した記録は、パリ五輪代表に内定している19歳の竹原秀一や22歳の松山陸ら若手が目指すべき“壁”となる。

「背泳ぎにおいては近年レベルが低くなっているところがあって、それは先導してきた自分が世界と戦えない選手になっていくなかで僕がそうしてしまったという気持ちがありました。自分がそんなに高い壁ではないからこそ、若い選手にはどんどん自分を破って、自信を持って世界に挑んで欲しいという気持ちはここ数年ありました。だから、選考会の200mのレースで最後、竹原選手に敗れたときは、どこか悔しい気持ちがありながらも、数秒後には嬉しい気持ちというか、“頑張ってほしい”“水泳界を引っ張っていってほしい”という気持ちもあって」

 かねてから若手の突き上げを期待していた入江が引退を決めた今、あらためて後輩たちに送るエールとは。

【次ページ】 「結果だけなら、とっくに辞めていた」

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