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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「だから勝てないんですよ!」小林繁は激怒した…阪神の“レジェンド”川藤幸三が振り返る“ダメ虎”だったあの頃「暗黒時代はな、喜びがないねん」
posted2024/03/26 11:01
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
Kiichi Matsumoto
「オイ、お前、ヒット打たんでええ」
カワさん、いま、なんとおっしゃいました? 38年ぶりの日本一に輝いた昨季のタイガースを振り返っていたら、耳を疑うようなことをのたまう。選手に対するアドバイスなのだが、阪神出身の評論家きっての論客とはいえ、聞き捨てならない。だが、よくよく話し込むと、その鋭い舌鋒のなかには後輩たちへの深い愛が込められていた。
「カワさん」の眼差し
まだ2月の頃の話だ。沖縄の陽光の下、宜野座キャンプの客席にある人を見つけた。日焼けした顔は赤みを帯び、鼻の皮がめくれている。川藤幸三、御年74歳。「浪速の春団治」としてファンに愛されてきた「カワさん」は球団のOB会長を務めて14年目である。シーズン中は甲子園だけでなく、遠征先にも足しげく通う。誰よりもタイガースの試合を見守ってきたカワさんの目には、昨季のリーグ優勝、日本一はどのように映っているのだろう。
「点点点が、ある程度の点線になって、去年、ようやく一本の線になったわけやろ。それが優勝ちゅう線や。点は何か言うたらその年によって、投手陣は良いけどとか、打者が揃っていても得点にならないとか、あらゆる要素の中で足りないものがあるから、勝負どころで繋がらなかった。そういった点がだんだん増え、去年ようやく一本の線になった」
昨年、本塁打王など打撃主要3部門でタイトルホルダーが現れなかったが、それでも頂点に立った。カワさんは2022年に連覇を果たしたヤクルトを引き合いに出す。
暗黒時代の記憶
「ヤクルトも点で散らばっとったのが、三冠王の村上宗隆を中心に1番塩見泰隆から山田哲人たちで線になった。阪神はもっと広い意味でのバラバラの点やった。ホームラン王、打点王、誰もおらへん。ところが、四球や内野ゴロや外野フライ、犠牲という、あるべきものを1つ1つ、重ねていったわけや。それは何やと言うたら、組織やんか」
抑揚のある口ぶりは熱を帯びていく。カワさんは1968年にドラフト9位で福井・若狭高から阪神に入団。それ以来、60年近くタイガースとともに人生を歩み、栄光の85年も、90年代を覆い尽くす暗黒時代も経験した。なぜタイガースはいつも長く優勝から遠ざかるのか。長い球団の歴史を紐解きながら、「組織としての体をなさなかったからや」と言い切るのだ。