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「高校時代はマネージャーでしたが」慶応大・女性チーフアナリストが笑顔で語る“やりがい”「主将だった兄に“野球経験がないのがいい”と」 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2024/03/11 17:01

「高校時代はマネージャーでしたが」慶応大・女性チーフアナリストが笑顔で語る“やりがい”「主将だった兄に“野球経験がないのがいい”と」<Number Web> photograph by Kou Hiroo

慶応義塾大学野球部でチーフアナリストを務める福井みなみさんに話を聞いた

 選手の中にはメジャーリーグが好きで、ボールの回転数や変化量などにもすごい関心を示す選手もいれば、全くそういうものに触れてきていない選手もいます。なので、入部してきたときに『データ講習』を行っています。選手もアナリストの役割を最低限理解できる状況は作っています」

兄から言われた「主観・先入観がない。それがいい」

 同大学のアナリストには、野球経験がある人と、全く野球に触れなかった人がいる。データの見方、分析のプロセスは変わってくるのだろうか。「私はマネージャーはしていたけど、野球経験はありません」と言う福井さんの考え方は、このようなものだ。

「当然のことですが、野球経験がある場合は実践的な知識があるので、例えば『どういう球種だったか、どうしてボールが抜けたのか』などを指摘できます。

 でも野球経験がない場合、パッと見ても『抜け球だよ』とか言われてもわからないですし、そもそも選手がどんなデータを欲しがっているかもわからない。それを知るところから始まります。経験がある人の場合は『こういうデータはいらない』などの取捨選択が早いですね。

 でも兄から『野球経験がないと、主観や先入観がそもそもない、それがいいんだ』と言われました。

 慶応の野球部には、野球がうまい人ばかり入ってきています。その選手たちに野球をかじったことがある程度の人が先入観で伝えるより、経験がない人が、あくまで『データに則った意見だけ』をそのまま伝える方が『届き方』が違ってくるのでは、と思います。最初の頃は『野球経験があれば良かった』と思うことがあったのですが、今は野球経験がないことが強みではないかと思っています」

 そんな福井さんがアナリストになって以降、部内でのデータ活用はどれだけ進んできたのか。

「データに関心を持って取り組んでいる大学野球の選手って、まだ少数派だと思います。でも、だからこそ慶応の選手がデータを理解して練習や試合に数値目標を持って臨んだら、他の5大学にすごくリーチできると思います。

 もちろんデータとか知識、戦略なしでいきなり打席に立つ方がいいんだという選手も、歴代のスタメンの中にはいました。でもデータがあれば目標設定ができます。それこそ宗山塁選手(明治大学、今秋ドラフトの有力ショート)の打球速度と自分がどれだけ違うのかを知れば、すごくいい目安になると思います。学生コーチや監督、助監督からデータを見せることもありますし、主要なデータは選手、監督、スタッフなどのグループLINEで共有しています」

みんな優秀なアナリストになってもらいたい

 実は慶応義塾大学のアナリストは、専門分野としては福井の1学年先輩の代にスタートしたばかりだ。

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