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「根拠のない昔ながらの指導」プロ野球コーチは淘汰される? 西武関係者が明かす“データ革命”…榎田大樹の復活で確信を得た舞台ウラ
posted2024/01/05 17:28
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
JIJI PRESS
MLBは今やデータ野球全盛と言っても良い。投打のデータはスタットキャストなどのデータ解析ツールでオンタイムに表示され、選手はデータに基づいて攻略法を考えたり、球種、配球を組み立てたりしている。つまり、データ解析をするアナリストは、ペナントレースを左右する存在になっている。
MLBに比べればNPBは情報化でかなり遅れているとされるが、その中で埼玉西武ライオンズは弾道計測器「トラックマン」をいち早く導入し、専任のアナリストを雇用してデータを野球に活用している。埼玉西武ライオンズの「データ戦略」について、管理者、アナリスト、選手の視点から紹介しよう。
西武のデータ戦略キーパーソンのユニークな経歴
株式会社西武ライオンズ球団本部チーム統括部長兼企画室長の市川徹氏は、ライオンズにデータ戦略を本格的に導入した。その経歴は、ユニークなものである。
「早稲田大学1年のときに野球部をやめてしまったのですが、何か野球にかかわる仕事がしたかったのでアメリカに留学してスポーツマネジメントを学んで、2005年にウォーレン・クロマティさんが監督をしていたサムライベアーズでインターンシップをやりました。
日本に帰って楽天イーグルスで法人営業、さらに岩手21赤べこ野球軍団でマネージャー業務をやりました。そのあとスポーツデータ解析会社のデータスタジアムに入って、主に対アメリカのスタッツ社との対応業務につきました。
でもやはりコンテンツホルダーに入りたいと思って、募集はなかったのですが西武ライオンズに履歴書を送って何とか入社して、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の立ち上げを担当しました。さらに同様のシステムを立ち上げるというので阪神タイガースに転職し、CRMやスマホアプリの開発などを手がけました。『野球離れ』に対して問題意識を持つようになった時期で、そのタイミングで西武ライオンズから『戻ってこないか』と言われて復帰しました」
トラックマン導入後に気づいた“解釈する作業”の重要性
市川氏の特色は「データだけでなく日米の野球を取り巻く社会環境やビジネス全般に精通している」ことで、視野がとにかく広い。そんな市川氏は2016年に「トラックマン」の導入を担当した。