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《陰のキーマン》「いてくれて助かる」首脳陣の信頼も厚い第三の捕手・磯村嘉孝が「腹をくくって」放つ存在感
posted2023/09/25 11:03
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
新井カープが4年連続Bクラスからのクライマックスシリーズ進出に向けて、最後の力を振り絞り戦っている。
昨季から戦力に大幅な上積みはなく、多くの若手が台頭したわけでもない。全国区のスター選手は少なく、投打に抜きん出た選手もいない。
スタメン出場した9人だけでなく、ベンチ入りした25人で戦ってきた印象が強い。特に今季は新井貴浩監督の攻撃的な采配で、勝負どころでは積極的な選手起用が目立つ。ベンチ入り野手を全員起用した試合は3度あり、8月27日ヤクルト戦では野手だけでなく、投手も全員を使い切った。
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一軍登録日数145日(9月24日時点)で出場25試合の磯村嘉孝も、欠かせない戦力だった。
中京大中京高から2010年のドラフト5位で入団し、2年目の12年に一軍デビューを果たした。3連覇した18年には37試合に出場し、石原慶幸(現広島バッテリーコーチ)と會澤翼に次ぐ地位を確立。19年は右の代打としても存在感を示し、打率.278、4本塁打、21打点の成績を残した。昨季はプロ入り最多40試合でマスクを被った。ただ、いつも誰かの控えという役回りだった。
第三の男の日常
今季も、立場は「第三の捕手」だ。春季キャンプ中に左ふくらはぎを痛めたことで出遅れたことが響き、出場機会を奪うアピールが十分にできなかった。シーズン開幕から約1カ月がたった4月21日に一軍昇格も、すでに坂倉将吾を正捕手に据え、二番手にインサイドワークに定評のある會澤が控える布陣が固まっていた。
「ケガしたということは、自分の準備不足。今の立場は自分が招いたこと。會澤さんは安心感があるし、投手からの信頼も厚い。捕手だけでなくチームの中心。ライバルではありますけど、大きな壁だと思う。坂倉はまだ若いですけど、これだけケガ人が出ている中でもあれだけの試合数に出て、ケガをしない。後輩ですけど、彼も大きな壁。僕にとって、二人は大きな存在で、この世界で生きていくためには超えていかないといけないと思っています」
入念に準備していたにもかかわらず、離脱した悔恨は拭えない。より一層、準備に駆りたてられるようになった。いつ訪れるか分からない、その瞬間のために一人、黙々と備えてきた。
デーゲームなら8時に、ナイター試合なら10時30分には球場入りし、まずは前日の試合の確認から始める。各投手の球筋や表情などから調子や投球を頭に入れる。それからウエートトレーニングやランニングを行い、限られた出場機会で落ちる運動量を補う。全体の練習時間だけでは足りず、試合中にベンチからブルペンへ移動し、投手の球を受けに行くこともある。