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ドネアを倒した世界王者を衝撃KO、中谷潤人とは何者か? 地元の師匠が34歳で急逝、中卒→米ボクシング留学…名伯楽は「将来はスーパーフェザー級」
text by
前田衷Makoto Maeda
photograph byJIJI PRESS
posted2024/02/25 11:04
タフと見られていた王者アレハンドロ・サンティアゴを6回KOで下した中谷。階級の壁を難なくクリアしてみせた「ネクストモンスター」とは何者なのか
リングに上がるまでの苦労に比べれば、試合は中谷にとってさほど困難ではなかった。速い動きで距離を保ちながらマグラモの強打を封じつつ翻弄した。攻めてはジャブ、左ストレートを再三ヒットさせ、理想的な展開で終始圧倒。そして迎えた8回、最後は左アッパーが効いてマグラモを倒し、10カウントを聞かせた。新チャンピオンを祝福する大歓声の替わりに拍手で後楽園ホールは沸いた。
将来はスーパーフェザー級まではいける
日本のボクシング界では白井義男以来伝統のフライ級に誕生した20人目の世界王者となった中谷はいま、誰よりも多くタイトルを防衛し、世界4団体のチャンピオンの中でも最強と評価されたいと望んでいる。まだ23歳の若さゆえ、その可能性もないではない。しかし別な要因からこの望みが叶うかどうかは微妙である。
世界チャンピオンになると誰でも減量がきつくなるのは、後援者らの接待が増えるからである。中谷は幸いというべきか、コロナ禍で会食の機会も制限されている。しかし、それでなくてもフライ級では減量がきつく、上の階級への転向は時間の問題とも思えるのだ。次の試合――9月10日アリゾナ州ツーソンで行われる初防衛戦(対アンヘル・アコスタ、プエルトリコ)に備えて調整中の中谷に聞くと、「フライ級で名前を売ってから、上に行きたい」と答えた。
ルディは「将来はスーパーフェザー級まではいける」と言うからあきれる。今のフライ級からスーパーフェザー級まで全階級獲れば6階級チャンピオン(現時点では井岡一翔の4階級が日本人男子最多記録)。夢のような話であるが、中谷は「期待してくれているんで、しっかり体を作っていければ可能性もあると感じています」と、控えめながらも大きな野望を隠していない。
中谷潤人Junto Nakatani
1998年1月2日、三重県生まれ
[戦績]27戦27勝(20KO)
[獲得タイトル]
WBO世界フライ級王座、WBO世界スーパーフライ級王座、WBC世界バンタム級王座
小学6年からボクシングを始める。中学1年から桑名市のKOZOジムに入門。東員第二中を卒業後、アメリカに単身留学し、16歳の時にM.Tジムへ移籍。'15年4月にプロデビュー、'19年2月日本王者に。無敗の21連勝で'20年11月WBO世界フライ級王座を獲得。'23年5月にWBO世界スーパーフライ級王座、’24年2月にWBC世界バンタム級王座を獲得し、井上尚弥、田中恒成に続いて史上3人目の「無敗での3階級制覇」を達成