猛牛のささやきBACK NUMBER
妻子いる28歳が念願のドラフト指名→30歳の新人王候補…オリックス阿部翔太「新人王はいいんです。日本一になれたらそれでいい」
posted2022/10/20 11:09
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
JIJI PRESS
オリックスが劇的な逆転優勝を決めた10月2日のレギュラーシーズン最終戦も、2年連続の日本シリーズ進出を決めたCS第4戦も、最後のマウンドに上がったのは2年目の阿部翔太だった。
今季44試合に登板し失点はわずかに3、防御率0.61と抜群の安定感を誇る右腕は、しびれる日々を送っている。特に、オリックスが勝利し、ソフトバンクが敗れた場合のみ優勝できるという状況で臨んだシーズン最終戦(対楽天)は震えた。当日のブルペンの様子を、阿部は臨場感たっぷりに振り返った。
「朝のニュースを見ても、ほぼ(オリックスの優勝は)無理だと思っていたんですけど、試合中、うちが逆転して、ZOZOマリンでもロッテがソフトバンクを逆転して、『これ(優勝)あるやん!』となって、思いっ切り緊張し始めました。ずっと平野(佳寿)さんと話しながら、ブルペンのiPadでソフトバンク戦も見ていたんですけど、平野さんも『うわー!しびれる展開やなー。緊張するなー』って。普段平野さんは『緊張する』って言わないんですけどね。平野さんでも緊張するなら、そら俺もするわって(苦笑)。
僕は6回ぐらいからストレッチを始めて、『8回あるかな』と思っていたんですけど、7回裏が終わった時にベンチから電話が来て、8回はワゲスパックになった。その時は1点差だったんで、僕は延長戦になった時の要員かなと思って、ちょっと一度心を休めてゆっくり待つことにしました。9回は平野さんだと思っていたので。平野さんには、『阿部ちゃん9回あるんちゃう?』と言われたんですけど、『いやー、平野さんでしょう』と」
守護神の平野は終盤戦の9月、体調不良で一時登録を抹消され、その後再登録されたが、まだ本調子ではなかった。
8回裏が終わった時、9回の登板を告げられたのは阿部だった。「めちゃくちゃびっくりしました」
「まだ優勝決まらへんから、勘違いすんなよ」
9回裏、こわばった表情でブルペンからマウンドに向かう阿部に、平野が声をかけた。
「向こうの(ソフトバンクの)試合まだ終わってへんからな。抑えてもまだ優勝決まらへんから、そこ勘違いすんなよ。マウンドで待ってても誰も集まってこーへんぞ。ちゃんと1回ベンチ帰ってこいよ」
阿部は、「あれで、『わかりましたー』と笑って、ちょっと緊張がほぐれました」と感謝する。
阿部は三者凡退に抑えて今季3つ目のセーブを挙げ、ベンチ前のハイタッチの列に加わった。
その直後、楽天生命パークのビジョンに、ZOZOマリンのロッテ勝利の瞬間が映し出された。オリックスの選手たちはグラウンドへ駆け出し、阿部の目に涙があふれた。