濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
あの天心戦後、武尊から届いたLINE「3人でご飯行きましょう」卜部兄弟だけが知る“武尊の素顔”「K-1に無断で動いたこともあったはずです」
posted2022/07/05 11:02
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
THE MATCH 2022/Susumu Nagao、Yuki Suenga
試合から3日たっても、まだ卜部功也は「空っぽ」だった。自分の試合が終わったわけでもないのに、これほど虚脱感に襲われるとは思ってもいなかった。
インタビューしたのは6月22日。彼は19日の『THE MATCH 2022』東京ドーム大会のメインイベントで兄の弘嵩、渡辺雅和(K-1ジムKREST代表)とともに武尊のセコンドについた。最も近い場所で、武尊の10年ぶりの敗戦を見届けたことになる。思うことがいろいろありすぎて、試合について安易に振り返るのもはばかられるという感覚だった。
取材でひとつだけ明かしてくれたのは、1ラウンドのプランだ。
「とにかく1ラウンドは“我慢”でした。プレッシャーをかけながらという前提で、相手の出方を見る。天心くんはスピードが抜群なので、まず速さに目を慣れさせようと。情報を得るという意味もあります」
情報とは、その日の対戦相手の調子、どの攻撃にキレがあるか、それが自分にどう感じられるかといったことだ。最初の3分間は分析に徹する。そのためにはいたずらに攻撃しない“我慢”が必要だった。
「でも結果として、それができなかったんです」
セコンドから感じていた“武尊の異変”
武尊は1ラウンドから強力な攻撃を繰り出し、カウンターを食らってダウン。このポイントが響いて判定負けとなった。
陣営としては、1ラウンドを“捨てて”も2、3ラウンドで巻き返せるという自信があった。武尊には追い込まれてからの逆転勝利もある。ただダウンによるダメージと2ポイント差を挽回するには、予定した以上の強引さが必要になってくる。強引に攻めてくる相手に対処するのは、那須川の得意とするところだ。
「どうして我慢ができなかったか。たぶん会場の雰囲気だと思います。いつもとはお客さんの数も違うし熱気がもの凄かったですから。そのお客さんの期待を背負ってしまったんでしょうね、武尊は。だから我慢しきれず攻めてしまった。逆に天心くんは会場の雰囲気を楽しめていたような気がします」
卜部は武尊のセコンドにずっとついてきている。武尊が望めば、自分の試合がある日でもリングを降りると武尊のセコンドについた。そんな卜部から見て、那須川戦での武尊はいつもと違っていた。
「いつもはもっと細かく、いろんなバリエーションの攻撃を出すんですよ。武尊は決してパンチだけの選手じゃない。蹴りもうまいんです。でも今回はそれが出なかった。まあでも、それは仕方ないんです。100%出し切れる試合なんてめったにない。万全で臨める試合なんて、たぶん一生こないんです」