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あの只見がなぜ21世紀枠に? センバツ出場の立役者がいま明かす、“推薦プレゼンの裏側”…改めて考えた「高校野球はどうあるべきか」
posted2022/04/09 11:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
カクテル光線が甲子園球場を照らす。
目の輝きが、際立つ。
15人の部員、監督。野球部関係者や支援者、町民たち……。
3月22日。只見が、ひとつになった。
大垣日大に敗戦も…観客を魅了した只見の野球
センバツ史上最も遅い時間帯に行われた試合。選手たちにとって初めてのナイターは、引き締まったゲームとなった。
東海地区代表の大垣日大に2点を先取されるも、4回には四球で出たランナーをバントで送ると、2死一、三塁からライト前へのヒットと理想的な得点で1点差に詰め寄った。
「もう、ジーンときてしまいました」
電話口でも、少しだけ声が震えているのがわかる。試合翌日の取材でも、福島県高校野球連盟の木村保理事長にはまだ前夜の余韻が残っているようだった。
「タイムリーを打った時なんかたまんなかったですよね、はい。頑張ってきた子たちがあの舞台でガッツを見せてくれましたから」
ヒットはこのタイムリーを含め、わずか2本だった。打線は相手ピッチャーに18三振を喫したが、守りが踏ん張った。1-6と敗れはしたものの、21世紀枠の高校への拍手が甲子園で反響していた。
試合前の危惧…「21世紀枠のあり方が問われるんじゃないか?」
試合後、木村はセンバツの大会関係者から、労いの言葉を多数もらったという。
「只見、本当によく頑張った。これが高校野球の原点だね」
やっぱり、みなさんもわかるんだ。これこそが高校野球なんだ――。
只見が甲子園ではつらつとプレーした1時間53分にこそ、その精神が凝縮されていたのだと、木村は反芻していた。
「高校野球の原点。みなさんがそう言ってくださって嬉しかったですね」
そう言うと、わずかな間が生じた。いや、もう……口調を整え、木村が本音を漏らす。
「正直、只見高校さんは21世紀枠の試金石だと思っていたんです。必ずどちらかに転ぶと思っていました。私としても当然、覚悟の上で試合を迎えたわけですが、ああいう素晴らしい試合をしてくれたのは選手たちの頑張り、そして、甲子園の、野球の神様が力を与えてくださったのかな、と思っています」
どちらかに転ぶ。はっきり打ち出せば、それはネガティブな思考だった。つまり、「只見高校のせいで21世紀枠のあり方が問われるんじゃないか?」。そういった危惧や恐怖のほうが木村の考えの大半を占めていた。
あの只見が、なぜ21世紀枠に。
福島県の高校野球を知る者であれば、ほとんどの人間がそう思ったに違いない。