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藤田一也39歳「えっ、選手一本ですか?」本人も驚いた10年ぶりのDeNA復帰「ハマスタでプレーできたらって心の奥底で…」
posted2021/12/27 06:01
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph by
KYODO
ふいに着信音が鳴った。
電話に出ると相手は横浜DeNAベイスターズの編成部長である進藤達哉だった。
「(コーチ)兼任とかではなく、選手として横浜では考えているから、ぜひ戻ってきてほしい」
東北楽天ゴールデンイーグルスを退団し、去就を模索していた藤田一也に届いた古巣からの朗報。そのときの気持ちを藤田は語る。
「自分としてはどんな形であれ選手ができたらいいと考えていたのですが、進藤さんから選手一本でと言われたときは本当に……『えっ、選手一本ですか?』と逆に聞き返したぐらいです。本当に嬉しかったですね。もう一回、やってやろうって」
10年ぶりのDeNA復帰。藤田は、進藤の言葉に努めて冷静に対応したというが、「心のなかではガッツポーズしていました」と言うと笑顔を見せてくれた。
誰もが予想し得なかったトレード
あれは突然の出来事だった。入団8年目、DeNA元年でもあった2012年6月24日、シーズン中に藤田と楽天の内村賢介とのトレードが発表された。レギュラーとはいえなかったが、堅実な守備とその人間性で絶大なる信頼を得ていた藤田のトレードは、同僚選手たちやファンにとってはショッキングな出来事だった。当事者である藤田も動揺を隠しきれなかった。
「とにかく悔しかったですね。自分自身レギュラーを獲得できず、チームもなかなかAクラスになれない。また入団したときに誓ったリーグ優勝も日本一も叶えることができていませんでしたし……」
同時に藤田は、選手として危機感を強く抱いていた。数日後には30歳になるタイミング、プレイヤーとして本来ならばピークを迎えていなければいけない。
「年齢も年齢でしたから、このタイミングでトレードとなると、あと1~2年が勝負になると思っていました。楽天で結果が出なければ、すぐに戦力外になってしまう。スイッチが入ったし、楽天ファンはもちろん、ベイスターズファンにも自分が頑張っているところを見せたかった」
起死回生。藤田は結果的にこの移籍で遅まきながら自分の殻をぶち破り、楽天でレギュラーを獲得して2013年の日本一に貢献した。また個人的な目標だったゴールデングラブ賞を受賞するなど、キャリアハイを経験することにもなる。東北のファンに愛された楽天での10年間は、藤田にとってかけがえのない日々になった。