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柔道・井上康生とバスケ・ホーバスHC、「目標設定からの逆算」で五輪を好成績に導いた指導者2人、“もう一つの共通点”とは
posted2021/08/15 11:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
8月8日に閉幕した東京五輪は、指導者の重要性をあらためて感じさせられた大会だった。
大会前半、その活躍で注目を集めたのは柔道だった。女子も見事だったが、初日から快進撃を見せ、強い印象を残したのは男子だった。
7月24日の60kg級、高藤直寿が金メダルを獲得すると、66kg級の阿部一二三、73kg級の大野将平、81kg級の永瀬貴規と4日連続で優勝。100kg級のウルフアロンも含め、計5つの金メダルを獲得した。全8階級だったモスクワ(日本はボイコット)、ロサンゼルスを含め史上最多である。
原動力となったのが井上康生監督であった。
井上監督は、銀2、銅2で金メダルなしに終わった2012年ロンドン五輪の結果を受け、2013年に監督に就任した。監督として最初のオリンピックとなった2016年リオデジャネイロでは金2、銀1、銅4と、金メダル2つを含め男子7階級すべてでメダルを獲得。日本男子復活を印象付けて、満を持して迎えたのが東京五輪だった。
一方、大会後半、同じく指導者として脚光を浴びたのがバスケットボール女子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチだ。チームを史上初の表彰台となる銀メダルに導いたのは、身長差が大きく影響するバスケットボールではまさに快挙と言える。
両監督に共通する合理性
まったく異なる競技ながら、両者には相通じる部分がある。それは目標を設定し、達成のために対戦相手を想定した練習計画を立ててきたことだ。
井上監督の指導の根幹は、就任以来かわらない。1つは「裏付けをもっての取り組み」だ。練習やトレーニングにあたっては、その効果を科学的データで裏付け、漫然と取り組むのでなく、はっきりと強化のための手段とした。あわせて、対戦する海外の選手の特徴などを数値化し分析を行なった。選手を世界一にするためにはどうすればいいか、その目標から逆算して練習メニューを組み立ててきた。
ホーバスHCは日本でキャリアを積み重ねてきた。最初に来日したのは1990年。トヨタ自動車でプレーし、その後はNBAプレイヤーとして活動する時期もあったが、再度日本でプレー。2010年からWリーグのチームで指導にあたり、リオデジャネイロ五輪では日本代表のコーチを務めた。