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【トレード考察】巨人の狙いは“ドラフトの修正”?「岡本和真以上」と呼ばれた廣岡大志の手本となる選手とは
posted2021/03/08 17:02
text by
小関順二Junji Koseki
photograph by
Sankei Shimbun
3月早々に飛び込んできた、巨人・田口麗斗(投手)とヤクルト・廣岡大志(内野手)のトレードには驚かされた。
田口は2016、17年に先発として10勝10敗、13勝4敗を挙げ、先発投手としての地位を確保。19年の国際大会「WBSCプレミア12」では初めてジャパンのユニフォームを着て3試合にリリーフ登板、無失点に抑えているなど先発、リリーフともに実績はある。
一方の廣岡といえば、過去5年間の通算成績は236試合に出場して安打101、本塁打21、打点54、打率.214。これまでのキャリアハイは19年の打率.203、安打41、本塁打10、打点25。このときは「翌年の一軍定着」を予感させたが、その20年は試合数の減少(前年143試合→120試合)があったとしても、打率.215、安打26、本塁打8、打点15と下降線を描いてしまった。智弁学園高校の1学年先輩である岡本和真(巨人)と同じ長距離打者の素質が見込まれていただけに、覚醒を期待したヤクルトファンには物足りなかっただろう。
この廣岡と田口の“不釣り合い”にも見えるトレードの真意はどこにあるのか。巨人の思惑を中心に考えてみた。
ソフトバンクにあって、巨人になかったもの
巨人が昨年オフ、セ・リーグに指名打者制度を導入しようと理事会に再三働きかけたことはよく知られている。2年続けて日本シリーズで4連敗を喫した原辰徳監督の頭の中にあるのは打倒ソフトバンクへの執念である。指名打者制度のもとで公式戦を戦うことでリーグ全体のレベルアップを目指し、来るべき日本シリーズでソフトバンクを叩く――。田口を放出してまで廣岡を獲得した意図は、私にはそれしか考えられない。
今季の巨人スターティングメンバーを見てみたい。助っ人外国人勢が不透明な状況下とはいえ、有力視されている顔ぶれは、捕手=大城卓三*、一塁手=スモーク+、二塁手=吉川尚輝*、三塁手=岡本和真、遊撃手=坂本勇人、左翼手=テームズ*、中堅手=丸佳浩*、右翼手=梶谷隆幸*(名前横の*は左打ち、+は両打ち)。8人中6人が左打ち(うち両打ちが1人)で、少しアンバランスなことがひと目でわかる。
もし指名打者制度が導入されたら、ここに入るのは実績で見れば亀井善行、あるいはテームズを指名打者に置き、空いた左翼に松原聖弥を入れる形か。注目を集める“2m”ルーキーの秋広優人も含めたとしても、スタメンには左打者6人が並ぶことになる。
巨人のライバル、ソフトバンクはというと、捕手=甲斐拓也、一塁手=中村晃*、二塁手=周東佑京*、三塁手=松田宣浩、遊撃手=牧原大成*、左翼手=グラシアル、中堅手=柳田悠岐*、右翼手=栗原陵矢*、指名打者=デスパイネという布陣。右打者4人、左打者5人という好バランスで、牧原の代わりに今宮健太が入れば右5、左4になる。
昨季のウィーラー獲得も然り、先発要員の田口を放出してまで右の強打者を欲しかったのは、左打者の偏重が目立つ打線のアンバランスさを正そうとする先を見据えた狙いがうかがえる。
トレードを用いてドラフト結果を調整?
ドラフトの視点でも考えてみよう。現在の巨人にいるFAやトレードでの移籍加入組(日本人選手に限る)は、廣岡以外にも中島宏之、陽岱鋼、炭谷銀仁朗、梶谷、丸、立岡宗一郎、石川慎吾、香月一也がいる。彼らはすベて高卒野手だ。同じ条件で投手を見ると、6人のうち、4人が大学卒または社会人出身だった。私にはパ・リーグの基盤を作ったと言える積極的な高卒野手の指名に、巨人はトレードを用いて近づけようとしているようにも見えるのだ。