ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
田中賢介のセカンドキャリアは「小学校創設」 私財を投げ打ってでも進むピュアな動機
posted2020/10/05 11:01
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph by
Kyodo News
プロ野球選手としては異端のセカンドキャリアの輪郭が、明確に描かれた。
昨シーズン限りで、北海道日本ハムファイターズで現役を引退した田中賢介氏。未知なる挑戦をスタートさせた。私立小学校を創設することになったのである。
1年半後の2022年4月、自らが理事長を務める「田中学園立命館慶祥小学校」を開校することが正式に決定した。
去る9月24日、札幌市内で開いた記者会見で校名や概要などを発表した。スーツ姿で登壇し、ひとつの節目を迎えた心境を明かした。
「ここまでは『山あり、谷あり、谷あり、谷あり……』で、やってきましたけれど、何とか子供たちのために新しい学校を作りたい。その思いだけで、谷を越えました」
春季キャンプ中に「相談があります」
前例のない第二の人生になる。
昨シーズンで、ファイターズを含む日米20年間の現役生活に幕を下ろした。本拠地の北海道移転後、チームを支えた主力選手の1人だった。
今シーズンからは、新設されたポストの球団のスペシャルアドバイザー(SA)に就任した。スカウティングなどチーム編成に進言をし、事業関連の各種案件にも関わる。また在野では、解説者としても活動をしている。
ユニホームを脱いでも多忙だが、ライフワークのひとつとして自分の意志で付け加えることにした肩書が、学校法人の理事長だったのである。
その思いに触れたのは、引退直後の今年2月のことだった。沖縄・名護市での春季キャンプ中、既にお互いに夕食を済ませた後だった。携帯電話に「今日この後、食事行きませんか」とメッセージをもらった。「何かあるんだろう」との直感は、働いていた。
宿舎の裏の長年チーム内で愛されている、ひなびた定食屋で待っているとのことだった。少し遅れて同席した。夕食後だっただけに、軽めにキムチなどをつまみに生ビールを飲みながら、しばし他愛もない雑談をしていると「相談があります」と、本題を切り出してきたのである。
「小学校を開校しようと、動いているんです」
虚を突かれたこちらをよそに、これまでの経緯、今後の展望などの説明が始まった。意外性にあふれたプロジェクトは既に進行しており、その時点で綿密に練られていた。