炎の一筆入魂BACK NUMBER
田中広輔と小園海斗が散らす火花。
ショートの座は、勢いか、堅実か。
posted2020/02/18 11:40
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
バチバチと、広島春季キャンプのグラウンドでは見えない火花が散っていた。遊撃手争いを繰り広げる田中広輔と小園海斗。勢いある若手が、堅実さで積み上げてきた先輩に真っ向勝負を挑んでいる。
昨春はまだライバル関係にはなかった。
小園は入団時から高卒新人とは思えぬ技術と体力で周囲を驚かせた。とはいえ、遊撃には前年まで3連覇に貢献した切り込み隊長で絶対的レギュラーだった田中がいた。小園は近い将来のスター候補であり、当時はまだポジションを奪う挑戦者とすら見られていなかった。
だが、田中は右膝に痛みをかかえシーズン序盤から精彩を欠き、8月には戦列を離れ右膝半月板部分切除手術。ポジションを空けた。
代わって遊撃を守ったのが小園だった。58試合に出場し、打率2割1分3厘も4本塁打と球団の高卒新人記録を塗り替えた。最後までクライマックスシリーズ進出をかけたAクラス争いをしたチームの中で試合に出続け、経験も積んだ。若手中心の昨秋キャンプでは違いを示した。
田中に挑めるほど、成長した小園。
今春、体はさらに一回り大きくなった。飛び跳ねるような躍動感で駆け、鋭さが増したスイングでは柵越えも見せる。今春の動きを見れば「我慢して使い続けたい選手」と誰もが思うことだろう。高いポテンシャルを秘めるだけでなく、確かな地力も付いた。
しかし、相手はコンディション良好な田中だ。「心配なく動けている。(膝に)気を使わず一歩目を切ったりしてプレーできている」と右膝の状態はいい。選手会長に就任した責任感もいい意味で刺激になっているように感じる。
まだ30歳。世代交代と言われる年齢でもない。昨年不本意なシーズンを送っただけに、今季にかける思いは人一倍強い。
ただ、そんな田中にも挑めるほど、小園は成長した。そして狙うは遊撃の定位置。
「ショートのレギュラーを絶対取りたいと思ってやっている。チャンスは少ないですけど、攻めたプレーでやっていきたいと思います」
58試合出場の昨年から成長の歩みを緩めるつもりはない。