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上野由岐子から菅野智之への言葉。
「大事な悩みだけど大した事ないよ」
posted2020/01/23 11:50
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
菅野智之、千賀滉大、上野由岐子。
東京オリンピックイヤーの1月に「日本のエース」が一堂に会した。彼らが集ったのは18日まで福岡県内で行われていた「鴻江スポーツアカデミー」のトレーニング合宿だ。
筆者は15年ほど前から同合宿の運営サポートを行っている。毎年1月のライフワークだ。当初は選手3、4名程度で練習していたのが、年々参加選手が増えていき、今年はプロ野球の投手が15名、さらにソフトボール上野という過去最大の規模となった。
上野は北京五輪が行われた'08年の1月からこの場所を訪れている。そして千賀はまだ育成選手だったプロ1年目のオフの'12年の1月以来、皆勤賞を続けている。同アカデミー代表でアスリートコンサルタントの鴻江寿治氏が提唱する「うで体」「あし体」の理論に基づき、自身の体の構造を理解してそれに沿う形でフォームを作り上げてきた。
千賀の投球フォームは、まさに「あし体」の理想形である。それでも千賀は今年も鴻江氏のもとを訪れた。「自分の原点に立ち返れる場所」から1年をスタートさせたいと思いがあるからだ。
菅野が初参加したのは、2020年のため。
一方で菅野は今年が初参加だった。菅野は「うで体」のタイプ。腕から動く上半身始動が適しており、左足を上げる前に両手を動かして右半身方向に持っていき、体を少しひねってから足を上げるフォーム。
そして左足のつま先をそれまで下げていたのを上げるようにするなど、「うで体」の理想形の投げ方を、まずは極端に試しながらマウンドから投げ込んだ。
当初は3日間参加の予定だったが、スケジュールの都合で17日の夕方にしか福岡に到着できなくなった。「それでも行きたい」と強行軍を決断。16時頃に球場に到着すると、着替えとウォーミングアップを素早く済ませて、17時にはマウンドに立っていた。真冬の空色がどんどん濃くなっていく。気温もぐっと下がった。
「この時期の、こんな時間に投げたことはないですよ」
それでも菅野は投げた。立ち投げではない。捕手を座らせての投球である。その姿から2020年にかける意気込みが、ひしひしと伝わってきた。