Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
22年前、イチローが松坂大輔から“狙って100号ホームランを打った理由”「あれくらいで確信なんて早すぎるんだよ」
posted2021/07/09 17:03
text by
石田雄太Yuta Ishida
〈初出:2019年6月13日発売号「イチローvs.松坂大輔『最初で最後の1本塁打』」/肩書などはすべて当時〉
初対決で3三振を喫したその2カ月後、稀代のヒットメーカーは100号弾で雪辱を果たした。海を渡っても続いた、2人の天才の対決。その唯一の本塁打を、捕手の視点で振り返る。
「100号は松坂君から打ったほうが喜んでいただける」
イチローは時折、狙ってホームランを打っていた。イチローはこう言っている。
「スイングはいつもと変わらないんですけど、狙うときにはボールの少し下を打ちにいく、ということはしていますね」
日本で118本、アメリカで117本。
235本のホームランの中で、イチローが明らかに狙って打ったホームランがある。それが100本目のホームランだ。そのホームランをイチローは1999年7月6日、神戸で松坂大輔から打っている。イチローはこの日、こんなコメントを残した。
「ホームランは前の打席から狙っていました。100号は松坂君から打ったほうが喜んでいただけると思いましたから……」
このとき、松坂とバッテリーを組んでいたのが中嶋聡だ。イチローとチームメイトだった中嶋は、ライオンズへ移籍してルーキーの松坂と出会う。当時、中嶋は松坂に対してこんな印象を抱いていた。
「とにかくボールが暴れていました。まっすぐもスライダーも暴れていた。だから暴れた球をうまく利用するために、キチキチに構えないというか、この暴れ方ならこっちのまっすぐはいけるなとか、こういう暴れ方ならスライダーが上手く使えるなとか、そう考えるようにしていました」
その発想が功を奏したのが、イチローが100号を打つ2カ月前の、イチローと松坂の初対決だった。イチローから3三振を奪った、1999年5月16日のことだ。
捕手中嶋聡が知る、松坂大輔の“いいボール”とは?
イチローと松坂の初対決は1回表、ツーアウト、ランナーなしの場面で実現した。初球、インコース低めへのストレートは149km、判定はボール。2球目はインコースの高め、153kmのストレートをイチローが強振して、ファウル。その後、松坂はスライダーをアウトコースに2球続けてカウントは2-2となった。追い込んでからの5球目はふたたびインコース高めへ151kmのストレート、またもファウル。そして6球目、松坂はアウトコースの高めにストレートを投げた。スピードは147kmだったが、うなりを上げて伸びるボールにイチローのバットが空を切り、空振り三振。
中嶋がこう振り返った。