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ゴルフのルールと特待生制度の考察 

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海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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posted2007/05/17 00:00

 このところの高校野球の特待生問題を見ていて、ゴルフのルールのことを思い出した。

 ゴルフのもっとも基本的かつ重要なルールは、「球はあるがままの状態でプレーしなければならない」というゴルフ規則第13条の定めだが、なぜその一条が書かれたかということだ。

 ゴルフをやったことのない人には分からないかもしれないが、他人がボールを打ったあとの穴ぼこや、木の根元にボールが止まってしまうということはしばしばある。だからといって、そのボールを打ちやすいところに動かしては駄目だということだ。

 しかし、この定めは、1754年にスコットランドのセントアンドリュースでつくられた最古のゴルフ規則には記されていない。おそらく、ボールを動かさないというのは、昔のスコットランド人にとっては何百年も前から当たり前のことで、わざわざルールとして定める必要もないことだったからだろう。

 それでは現在のルールにはなぜそのいわずものがなの一条が記されているのか。

 これはぼくの推測だが、ゴルフの普及とともに、打ちにくいところに止まったボールを打ちやすいところに動かして打つ不心得者が出てきたのだと思う。ゴルフには審判員がいないから、同伴のプレーヤーに隠れて動かそうと思えばいくらでもできる。

 しかし、そんなことが一般化すれば、ゴルフはゴルフではなくなってしまう。そこで現在のルールを制定したイギリスのロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブでは、実状はどうであろうと頑としてそれを認めず、そのかわりに、ボールは勝手に動かしてはならないという、ことさらに定めるのも恥ずかしいような一条をルールに加えたのであろう。そして、ゴルフの命を守ったのである。

 ところが、日本のゴルフ規則には、ローカルルールとして、その基本原則に反する一条がある。

 「スルーザーグリーンの『芝生を短く刈ってある区域』にある球は、元の位置より15センチメートル(6インチ)以内でホールに近づかない所に、罰なしに、動かしたり、またはこれを拾い上げてふき、プレースすることができる」

 日本では、動かして打っていいのである。

 おそらく、当初は日本でも、ボールを動かすゴルファーと頑として動かさないゴルファーのあいだで、はげしくその是非が論じられたことであろう。しかし、イギリスでは頑固者の立場を支持したが、日本では不心得者の立場を認め、不正を正すのではなく、不正を合法化することによって不正ではなくしたのである。

 高校野球の特待生問題もこれによく似てはいまいか。

 当初、多くのマスコミは、特待生制度によるスカウト活動や野球留学、そしてそこに介在する野球のブローカーの存在などを問題視していた。いずれも不明朗を生む原因となっているのである。ところが、高校野球連盟の調査で、特待生のいる高校が全国で380校、特待生の総数が8000人にものぼることが分かると、一転してその実状のほうを認め、特待生を認めないルールのほうを実状に合わないのではないかといい出している。

 はたして、高校野球連盟はイギリス式の解決策をとるのか、日本式の解決策をとるのか、ぼくは非常に面白い見ものだと思って見ている。

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