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「藤浪が161球投げさせられた」事件…金本知憲の“懲罰采配”、藤浪晋太郎がいま明かす「あの日のこと」大阪桐蔭で甲子園連覇→阪神エースの“苦悩”―2025上半期 BEST5
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/28 11:00

2016年7月8日の広島戦。先発した藤浪晋太郎は計161球を投げた
「周りもそういう雰囲気で接してくるんですよ。たとえば6回3失点だったとして、昨日は悪いなりに何とかゲームをつくったなと思っていても、次の日の報道とかでは『藤浪ピリッとせず』みたいな論調になる。そうすると、チームの人たちも『気にすんな』っていうテンションで接してくる。グラウンドでストレッチ中に他の人と話しているだけで『そんなことしてる場合か』とか。自分はチームに貢献したいし、勝ちたいっていう思いもあるのに『おまえ、やる気あんのか』みたいな言い方をされるとね。う~ん……。お母さんに勉強しろって言われて、やる気なくすみたいなね」
この話を聞くのがアリゾナでつくづくよかったと思った。
さらし者にされた——。
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161球事件に対する藤浪の言葉には、そんなニュアンスが含まれていた。ただ、極度に乾燥した気候のせいか、言葉にした瞬間、余計な水分は一瞬にして気体となり空気中に消えていく気がした。
いや、それすらも邪推だったかもしれない。時間と距離がそうさせたのか、藤浪の言葉にはもはや何の感情もこもっていないようにも感じられた。
「藤浪は生意気で人の意見を聞かない」批判まで
それにしても、わからなかった。確かに、この161球事件あたりを境に、藤浪は生意気で、他人の意見を聞き入れられないから不調から脱することができないのだといったニュアンスの報道を見聞きすることが増えた気がする。
だが、私の中の藤浪のイメージと、生意気という言葉のイメージはどうしても重ならなかった。むしろ、生意気だったら、こんなに外野の雑音に悩まされずに済んだのではないかとすら思う。本人に聞くものではないと思いつつ、聞かずにはいられなかった。なぜ、そう言われるのか、と。
「言われがちなんです。タイガースの風土もちょっとあるかもしれませんね。鳴り物入りで入ってきて、いきなり結果を出す選手に言いがちというか。基本的にスターが好きな球団ではないのかなという気がします」
偶然かもしれないが2016年に2球団競合の末にドラ1で入団し、新人王を獲得した高山俊(オイシックス新潟アルビレックス)は結局、7年間でルーキーイヤーがキャリアハイだった。2021年のドラ1、佐藤輝明も入団時のインパクトの割には、そこから伸び悩んでいるような印象も受ける。
藤浪はもがいていた頃のことをこう振り返る。