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「プレッシャーは一切ない」異国から来た挑戦者は、ニューイヤー駅伝でも旋風を起こすか

posted2023/08/24 11:00

 
「プレッシャーは一切ない」異国から来た挑戦者は、ニューイヤー駅伝でも旋風を起こすか<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

左からマイケル・キプランガット・テモイ、ジャコブ・クロップ

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph by

Kiichi Matsumoto

「GMOに、世界選手権銀メダリストが入部」陸上界に激震が走った。熊谷正寿代表がケニアまで出向いて口説いたジャコブ。そして若き新星のマイケル。「プレッシャーは一切ない」と口を揃えて語った彼らの大志の源泉に迫った。

「ここは標高が高いだろう? だからケニアと同じように、いいトレーニングができるんだ。プログラムも充実しているしね」

 長野県東御市のGMOアスリーツパーク湯の丸。室内プールや全天候型トラックを備えた日本唯一の高地トレーニング施設で練習を終えたジャコブ・クロップは、ゆっくりと右手を差し出した。彼は昨年、世界選手権(5000m)で準優勝。当時21歳ながらワールドランキングでも1位に輝くという実績を引っ提げ、GMOインターネットグループの陸上部(以下、GMO)に入部した。その際には熊谷正寿グループ代表が「マラソンの聖地」と呼ばれるイテンを直々に訪れ、自ら説得を行ったことも話題となった。

「高校時代からいろんな誘いをうけてきたけれど、有名企業の代表が直接来てくれるようなケースはなかった。熊谷さんは陸上部や会社、未来のビジョンについて一生懸命に説明してくれてね。単純に驚いたし、すごく感動したよ」

 心を動かされた理由は他にもある。

「僕たちアスリートをリスペクトしていることもすぐにわかった。僕が組んでいるコーチを蔑ろにするような雰囲気で接してくる人もいたからね。

 でも熊谷さんやチームのメンバーはマネージメント会社と連絡を取り、トレーニング方法や長期プログラム、今後の目標を確認した上で交渉しに来てくれた。それに今後のキャリアも真剣に考えてくれていた。僕はダイヤモンドリーグという国際大会で戦っているし、国籍を変更したくはなかった。ケニア代表として誇りをもっているからね。そういう意思も尊重してくれたんだよ。

 最後は情熱だね。熊谷さんは『僕は会社経営でも陸上部でもNo.1になりたい。夢を実現するために仲間になってほしい』と誘ってくれたんだ。その気持ちはすごく理解できた。僕もランナーとして世界の頂点を目指しているからね。精神的な面も含めて、GMOならトップランナーとしてさらに成長できる。僕はそう直感したんだ」

ジャコブ「GMOで大きな夢を叶えたい」

 来日後、彼の直感は確信へと変わる。

「陸上部の雰囲気は家庭的で、すぐに溶け込むことができたんだ。何より良かったのは指導体制やメンバー、環境も超一流で計画どおりに練習が進んでいることだね。たとえばこの施設は山にあるから、イテンと同じような高地トレーニングができるし、毎日のセッションも充実している。GMOに入って本当に良かったよ」

 ジャコブは来年1月、実業団駅伝で日本国内デビューを飾る形になるはずだ。未知の領域である駅伝に不安はないかと水を向けると、彼は力強く言い切った。

「プレッシャーなんて一切ない。そもそも僕は世界のトップクラスで戦ってきたし、大舞台に慣れている。僕にとってのライバルは自分の目標タイムだけなんだよ。

 もちろん駅伝はチームで戦うわけだから、コミュニケーションやチームワーク、総合力が鍵になる。でも一人ひとりが実力を発揮できれば、必ず結果はついてくると思う。僕はこの陸上部が好きだし、新しいチャンスを与えてくれたことに感謝もしている。だからこそ仲間のランナーと力を合わせて、大きな夢を叶えたいんだ」

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