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「スポーツには、人の生きるという本質的な姿が集約されている」スポーツ庁長官 室伏広治とEY Japan 多田雅之が描くスポーツの可能性

posted2023/04/11 11:00

 
「スポーツには、人の生きるという本質的な姿が集約されている」スポーツ庁長官 室伏広治とEY Japan 多田雅之が描くスポーツの可能性<Number Web> photograph by Asami Enomoto

EY Japan 多田雅之氏と、スポーツ庁長官 室伏広治氏

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph by

Asami Enomoto

2022年3月25日、スポーツ庁より第3期スポーツ基本計画が新たに策定された。スポーツの美しさとは何か。スポーツを通じてウェルビーイングをどのように高めるのか。スポーツの高潔性、インテグリティはなぜ大切なのか。今回、スポーツ庁長官の室伏広治氏とスポーツビジネスを多方面で支えるEY Japanの多田雅之氏が、スポーツ基本計画に込められた思いやスポーツの未来について、語り合った。

「スポーツには、人の生きるという本質的な姿が集約されている」

多田 室伏長官が現職に就任された際に、スポーツはトップアスリートだけのものではない、さまざまな観点で社会の役に立ちたい、とおっしゃっていたのが印象的でした。

室伏 オリンピックやパラリンピック、いろいろな競技の世界大会でのアスリートの姿を見て感動することがみなさんにはあると思います。スポーツにはそうした力がありますよね。ただ、スポーツの力はそれだけではない。特に、私はスポーツ庁で仕事をするようになってから、より幅広いスポーツの力を実感するようになったんです。

多田 それは例えばどのようなものでしょうか。

室伏 大きなテーマでいえば、「スポーツと生き方」ですよね。各地でスポーツを軸にした住民の健康増進が進んでいますが、最近よく言われている「ウェルビーイング」という考え方は健康を前提にして、それを超えたところにある価値だと思っているんです。やはり生きていく上では健康であるだけではだめで、それを超えたところにある楽しさや、味気ない生活に何かスパイスを与えてくれるような刺激に、スポーツの価値があると思うんです。

多田 とても共感します。僕自身は学生時代にサッカーに取り組んでいましたが、そのおかげで勉強にも意欲的に取り組むことができましたし、交友関係も広がり、充実した日々を過ごしてきました。長官ご自身はいかがですか。

室伏 僕は生まれた時からハンマーを持ってたんですよ(笑)。

多田 それはまた極端な(笑)。

室伏 私の場合は、父が40歳まで現役を続けていたハンマー投げの選手だったので、スポーツが生活の一部でした。

多田 親子で国際的な経験もたくさんされていますね。

室伏 父が出場した1984年のロサンゼルス・オリンピックの頃は、アメリカに住んでいた時期もありましたし、自分が競技生活に入ってからは、国際大会に参加する一方で、研究活動も並行して行っていました。振り返ってみると、陸上競技に取り組むことで、多田さんと同じように自分自身を成長させてもらったという実感があります。

多田 長官のようなトップアスリートには、パフォーマンスそのものや発する言葉に人々を感動させる力がありますよね。なぜ、そういった力が生まれるのでしょう。

室伏 スポーツの分野を医学的なもの、体育、そしてスポーツで見た場合、医学は恒常性や安定性を追求するもの、体育は発育、発達、そしてスポーツは人間の能力を開拓し変えていくものなんですよ。

多田 能力の開拓から、さらに進んでいくということですか。

室伏 その通りです。スポーツは健康だけにとどまりません。例えば、パラアスリートを例にとると、後天的に脚を失った人がいたとして、最初は歩けなかったのが歩けるようになり、走れるようになって、跳べるまでになる。

多田 それは明らかに、能力の開拓から限界を広げることにつながっていますね。

室伏 まさにその通りで、若い人は若い人なりに、シニアの方はシニアの方なりに能力を開拓していけばいいわけです。その中で、アスリートは人類の代表なわけです。

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