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《日常にもっとモータースポーツを!》現役プロドライバーとGRカローラ開発エンジニアが語る、クルマを操る喜びと未来 

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渕貴之

渕貴之Takayuki Fuchi

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photograph byTOYOTA MOTOR CORPORATION

posted2023/03/09 10:00

《日常にもっとモータースポーツを!》現役プロドライバーとGRカローラ開発エンジニアが語る、クルマを操る喜びと未来<Number Web> photograph by TOYOTA MOTOR CORPORATION

カローラスポーツを基本骨格とし、GRヤリス同様の1.6Lターボエンジンを搭載、さらに32PSのパワーアップを達成するなど大幅な走行性能の向上を果たしたGRカローラ

 GRヤリスはWRCのホモロゲーションモデルという側面を持つ、レースカーに近い存在だ。クルマ好きには垂涎の的であるが、2ドアであることをはじめ実用面では十全とは言えない。対して4ドアのカローラなら、たとえば家族持ちのクルマ好きが1台選ぶ場合、予算が許せばかなり幸せな選択となる。

「だけどエンジニアとしては、それをエクスキューズにしてはいけない。GRヤリスにはない良さを出し、キャラクターを分けたスポーツカーづくりを進めました」

 主軸に据えたのは、ヤリスよりも長いホイールベースなど、カローラスポーツのディメンションが生むコントロール性の良さだった。

「そこを大切にして、懐の深いスポーツカーをつくりたいと考えました。突き詰めて比較すれば、雪やダートなど滑りやすい路面で、GRヤリスより扱いやすいんです」

弱点を見抜いたモリゾウの言葉

 方向性が決まって開発が進み、クルマは形になってきた。ただ、GRヤリスとパワーは同じで車重は重いという事実には、誰の心にも引っかかるものがあった。

「そんなとき、試乗したモリゾウさん(豊田章男社長)にガツンと言われたんです。『これ野性味がない』って」

 つまりは退屈なクルマ。やはりパワーが必要だが、残る開発期間は1年しかない。

「パワートレーンのメンバーも情熱を持って取り組んでくれたので、なんとか。でもやはり、『鶴のひと声』は組織間の調整などで大きな後押しとなりました」

 排気系の改善などで、仕上がったエンジンはGRヤリスの272PSに対し、304PSを叩き出した。

「そこで初めて、加速感や野性味で劣らず、コントロール性が高いクルマだと言えるようになりました。利便性を抜きにしても、好みで選んでもらえると思います」

 とはいえ304PSを、公道で使いきれるはずもない。法規の範囲で楽しめる代物なのか。世にはパワーは控えめでも、「操る喜び」を売りにするクルマも存在する。

「当初、エンジニアの目指すところはそれとは違うと思っていたんです。極限領域を目指せば、日常領域がある程度犠牲になるのは当然だと。ですが様々なシチュエーションでテストをすると、まずボディ剛性の高さが前提で、そこを鍛えていくと実はしなやかな足まわりになって、街なかの乗り心地も悪くなく、低速から意のままに操れるクルマに仕上がったんです。それでいて、限界領域でも安心してクルマをコントロールできる。要するに、運転がうまくなったように感じるクルマができたと思います」

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