第99回箱根駅伝(2023)BACK NUMBER
万全ではない状態でも、見事総合優勝を果たした駒澤大学 他大学と明暗を分けた差とは〈第99回箱根駅伝〉
posted2023/01/10 10:00

第99回箱根駅伝、9区で区間3位の好走を見せた駒澤大学の山野力(4年)
text by

小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Nanae Suzuki
大会も大詰め、復路9区を先頭で走っている最中、駒澤大学の山野力(4年)は何度も泣きそうになっていた。
「監督から声をかけられるたびに、うるっときて。でも、泣くのは最後、青柿(響・3年)がフィニッシュテープを切ってからだと思って。ずっとこらえていましたね」
恩師と呼ぶ大八木弘明監督からの檄が、今季はやたらと胸にしみた。大会終了後の優勝会見で名将は「今季限りで監督を辞める」ことを発表するのだが、主将である山野ら一部の4年生は事前に監督からその話を打ち明けられていた。
いわばこの箱根駅伝が、大八木が監督として挑む最後の高い壁だった。だからこそ、どうしても総合優勝したかったし、まだ駒大が成し遂げていない学生三大駅伝三冠を恩師にプレゼントしたかったのだ。山野は背中越しに聞こえてくる、厳しくも温かな声に励まされながら、懸命に後続との差を引き離しにかかった――。
駒澤大学が一抹の不安を抱いていた区間
振り返ってみれば、勝敗を分けたのは監督ならびに選手たちの、このわずかな執念の差ではなかったか。学生三大駅伝三冠を狙う駒大と、箱根駅伝連覇を目指す青山学院大学、両者の一騎打ちと目された今大会で、先手を打ったのは駒大だった。
箱根駅伝初出場の4年生、円健介が冷静なスパートを決めて区間2位と好発進。一方の青学大は、同じく4年生の目片将大がトップから20秒差の区間7位とやや出遅れた。続く2区はエース区間、ここでも駒大の田澤廉(4年)が意地の走りを見せた。区間順位こそ3位だったが、青学大のエース近藤幸太郎(4年)にわずか1秒ながら先着する。たすきをつないだ直後、その場に倒れ込むほどの力走だった。
じつはこの区間に駒大は一抹の不安を抱いていた。レース後に明かされたことだが、昨年12月上旬に田澤が新型コロナウイルスに感染し、体調が万全ではなかったのだ。本来であれば最後の箱根駅伝で区間記録を狙いたいところだったが、目標を下方修正せざるを得なくなった。田澤が話す。