第99回箱根駅伝(2023)BACK NUMBER

〈第100回箱根駅伝〉で史上45校目の初出場校は生まれるか 虎視眈々と箱根路を狙う大学の現在地 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byYuki Suenaga

posted2022/11/30 17:00

〈第100回箱根駅伝〉で史上45校目の初出場校は生まれるか 虎視眈々と箱根路を狙う大学の現在地<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

第99回箱根駅伝予選会で個人37位の結果を残した、麗澤大学の工藤大和(2年)

「最善の準備をし尽くしたチームが箱根に行ける」

 今年7月に、父親が他界。その時も、何も伝えていないのに前田監督から葬儀に花が届けられた。父親は故郷の福井市で蕎麦屋を営んでいて、毎年予選会には家族で応援に駆けつけてくれていた。生前に予選会を突破したと伝えられなかったことが、唯一の心残りだ。

「長年やっていると、勝ちたい理由がどんどん増えていきます。うちのチームは若いですし、1年生にも面白い選手がいて伸びしろはある。選手たちには1年間本当に最善の準備をし尽くしたチームが箱根に行けるんだよって話をしています」

 忘れたことがないのは、わずか26秒差に泣いたあの時の悔しさだ。チーム10人目のフィニッシュが全体の6番目だったにもかかわらず、稼ぎ頭がいなかったためにタイム差で逆転された。あのとき得た教訓は何だったのか。監督の指導哲学について聞くと、しばし考え込み、静かに口を開いた。

「やはり自分がスカウトしてきた選手たちなので、彼らを信じるということですかね。彼らは私自身が可能性があると思って声をかけたので、良いところを引き伸ばしてあげたい。コミュニケーションを大事にして、箱根には必ず行けるんだって気持ちにさせたいですね」

 麗澤大を卒業後に、実業団で陸上競技を続ける選手は年々増えている。高校時代に目立った成績を残せなかった選手たちを、手塩にかけて育てる能力はすでに折り紙付きだ。柔和な表情の端っこに反骨心をしのばせ、今日も明日も、選手たちに愛情たっぷりの言葉のムチを振る。過去二度の次点は悲劇には違いないが、後に歓喜が待ち受けているのだとすればそれは大いなるドラマの伏線にもなりうるだろう。

 第100回大会、初出場となる大学が予選会を通過すれば、史上45校目の大学として箱根路に名を刻むことになる。山川監督は今度こそ、あの場所で笑えるだろうか。

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