第99回箱根駅伝(2023)BACK NUMBER
〈第100回箱根駅伝〉で史上45校目の初出場校は生まれるか 虎視眈々と箱根路を狙う大学の現在地
text by

小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYuki Suenaga
posted2022/11/30 17:00

第99回箱根駅伝予選会で個人37位の結果を残した、麗澤大学の工藤大和(2年)
古い合宿所、専用トラックもないという環境
この差がどれほど大きいか。監督はよくわかっていた。
「昔ほど上と下の実力差がなくなって、今はかなり狭いところに何校もひしめき合っているように感じます。本当にひとつのミスで順位が大きく入れ替わる。私の監督初年度が15位で、初めてボードに大学名が載って喜んでいたんですけど、今の状況だったら絶対にあの順位には来られていないですね」
ここまで、決して平坦な道を歩んできたわけではない。新興チームゆえにスカウトには苦労した。選手を集めても合宿所は古く、2017年に監督へ昇格したばかりの頃は大学内に専用のトラックすらなかった。そもそも麗澤大にコーチとして招聘されたのは、愛知の私立高校の駅伝競走部を強豪校に育て上げた手腕を見込まれてのことである。だが、監督はこんな劣等感を打ち明ける。
「もともと私は、選手としてはたいしたことがなくて、箱根駅伝も知らないんです。他の監督はみなさん日の丸をつけたり、箱根駅伝でも活躍している方ばかりなので、自分の持ち味を出していかないと戦えないというか。とにかくコミュニケーションを大事にしてきました」
中京大学の先輩・原晋監督から学んだこと
母校は青山学院大学の原晋監督と同じ中京大学で、箱根駅伝を目指す環境下にはなかった。「立教大の上野(裕一郎)監督のように選手と一緒に走れれば良いですけど100mも無理なので」と笑うように、目立った競技実績があるわけでもない。それでも着実にチームを強くさせてきたのは、選手をその気にさせる情熱があったからこそであろう。
「それこそ次点になったくらいから原さんとも食事をさせてもらって、去年は練習にも参加させていただきました。その時に言われたのが、『日本人だけとかにこだわらず、まずは箱根に行くためにやれることは全部やれ』と。ほんと勝負師なので、原さんには勝ち負けへの執念を学ばせてもらいましたね」
チームとしての転機は、2018年の予選会だった。大学側の支援を受け、この年、念願の陸上競技トラックが大学構内に完成。スピード練習がこなせるようになり、選手たちの走力が一気に上がった。予選会で次点の12位(※)まで躍進すると、メディアの注目度も増した。監督が大きかったとその影響を振り返るのが、テレビ東京系列のスポーツ番組に密着取材をされたことだった。
「今の強い2年生たちはあの番組で麗澤大を知ってくれて、麗澤大を箱根路に連れて行くという思いを持ってうちに来てくれたんです」
※同大会は第95回大会の記念大会として開催され、通常であれば12校が本大会の出場権を獲得できるが、『関東インカレ成績枠』が適用されることとなり、同枠として日本大学が既に選出され、同大会からは11校が本大会への出場権を獲得