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「本当の“怪物”は桑田なのでは?」PL学園・同級生が見たKKドラフトの真相。清原にはなかった圧倒的な才能「こいつ、オレたちと同じ人間なんか…」 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byKatsuro Okazawa/AFLO

posted2022/08/06 11:25

「本当の“怪物”は桑田なのでは?」PL学園・同級生が見たKKドラフトの真相。清原にはなかった圧倒的な才能「こいつ、オレたちと同じ人間なんか…」<Number Web> photograph by Katsuro Okazawa/AFLO

1985年のドラフトを経て、PL学園の卒業式で2ショットの清原和博と桑田真澄

 ある日、本間はランニングに出た桑田の後を何食わぬ顔で追いかけた。エースは後ろからついてくる本間に気がつくと、振り返って少しだけ微笑んだ。そしてすぐに前を向いてまた黙々と走り始めた。

 ゴルフ場に入ると木々の間の起伏のあるコースを進んでいった。夕日に照らされた芝を踏む音と互いの息づかいだけが聞こえた。桑田は止まらなかった。ほとんど変化のない景色の中を走り続けた。やがて、汗を吸い込んだ練習着がぴちゃぴちゃと音を立て始めた。

 一足ごとに身体が重たくなっていった。

 いったい、どれだけ走るんや……。

 本間はついてきたことを後悔し始めていた。

 体力には自信があった。チームメイトが音を上げるような練習でも動けなくなったことはなかったが、そんな本間でさえ不安を覚えた。1時間近くが過ぎたところで桑田はようやく止まった。本間は胸をなで下ろした。呼吸を整え、寮の方へ戻ろうと歩き始めた。

こいつ、本当におれたちと同じ人間なんか…

 ところが桑田はその場を動かなかった。そして目の前の急斜面を睨むと、そこを駆け上がり始めたのだ。頂上まで登るとゆっくり降りてきて、また駆け上がる。悲鳴をあげる心臓にムチを打つような反復だった。

 それが終わると、神霊が祀られているという御正殿のグラウンドに移動してインターバル走を始めた。200メートル、300メートルと距離を伸ばしながら走り続けた。桑田の足は止まらず、短距離走ではチーム一、二を争う俊足の本間が10メートルほども離された。

 こいつ、本当におれたちと同じ人間なんか……。

 本間はぞっとするような感覚に陥った。なぜ、ここまでやれるのか。桑田を突き動かしているものの正体がつかめなかった。

 甲子園に出て全国に名前を轟とどかろせる――31期生の誰もが、いやPL学園に入ってくる誰もが少なからず野望を抱いているはずではあった。本間もそうだった。大阪市北区の強豪・大淀ボーイズでは知られた存在だった。市内の有名チームとは軒並み対戦し、打てなかったピッチャーは記憶になかった。PLに入って甲子園という舞台で野球をやることによって、自分の人生が切り開けるかもしれないと思っていた。その一方で、十代の夢は眩しさの分だけ現実を前にすると儚く霧散してしまうこともある。野球部を辞め、学園を去っていく者も1人や2人ではなかった。

本当の”怪物”は桑田なのか?

 甲子園で勝つ。そんな漠然としたもののために果たしてここまでやれるだろうか? そのためだけに高校生がここまで自分を追い込めるだろうか?

 桑田には、自分たちでは計り知れないような動機があるのではないか、という気がした。その得体の知れなさが怖ろしかった。そのころから本間は本当の怪物は桑田なのだと考えるようになった。 

 もちろん清原にも驚かされたことはあった。フリーバッティングで打撃投手を務めたとき、バットの根元に当たった打球が高々と舞い上がるとそのままバックスクリーンまで届いてしまう。清原はゆったりとバットを振っているように見えるのに白球はぐんぐん伸びてスタンドに吸い込まれていく。

 おれたちならセンターフライなのに、なんであれが入るんや。

【次ページ】 「何を祈ってたんや?」と問うと、桑田は…

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清原和博
桑田真澄
PL学園高校

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