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「靴全体からしなりが感じられる。何より安定感が大きく増した」。2年後のパリを目指す浦野雄平が驚いた『ADIZERO ADIOS PRO 3』に息づくニッポンのDNA
posted2022/07/18 11:00

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涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Yuki Suenaga
「点ではなく、面で地面をとらえられるシューズですね」
浦野雄平(富士通)は、アディダスが発表した最新の厚底レーシングシューズ『ADIZERO ADIOS PRO 3』の履き心地について質問をすると、端的にそんな表現をした。『ADIZERO ADIOS PRO 3』は、アディダスが「爆速」というキーワードとともに送り出す1足で、フルレングス(爪先からかかとまでをカバー)の5本骨状の独自のカーボンが内蔵されているのが最大の特徴だ。
だが浦野は、そうしたアップデート箇所についても高く評価するものの、最も大切にしたいのは別の部分だという。なぜなら、自分の履くシューズには基礎的でありながら、揺るがない哲学をもっているからだ。
「まずはランナーとして『自分ありき』で考えるべきだと思うんです。シューズはランナーが唯一こだわれる道具ですけど、最新のものや強い選手が履いているものではなく、自分の走りにあったものを選ぶべき。厚底シューズが出てきて以降は、『このシューズだと、どういう接地をすべきですか』と質問されることもあるのですが、それでは『シューズありき』で本末転倒ではないかな、と。まずは自分の走りを理解することが大切だと思っています」
シューズの力を感じることができた「中間走」
浦野は國學院大時代に出雲駅伝の優勝に貢献、箱根駅伝でも山上りの5区で活躍するなど、母校の躍進を支えた。2020年春に実業団・富士通に進んだ後は、ルーキーながらニューイヤー駅伝の優勝テープを切ると、初マラソンとなった今年2月の大阪マラソンでは2時間7分52秒の好記録で3位に入り、パリ五輪代表の座をかけたMGC(2023年秋)の出場権を獲得している。日本長距離界の期待を背負う選手の1人だ。
大阪マラソンで浦野は前作『ADIZERO ADIOS PRO 2』を着用していたが、その効果を実感したのが、いわゆる「中間走」と呼ばれる15km~30kmの区間だという。
「足を置くだけで進むという感覚がありました。地面を“踏む”、“蹴る”のではなく、“置く”。大阪ではすごくリラックスして走れている感覚がありました。流れている、というか、余分なエネルギーを使わずにペースを維持できたんです。あの区間がもっともシューズの力を感じることができましたね」
マラソンランナーである浦野はシューズに対して、前半から中盤にかけて「脚へのダメージが少ないこと」を求めているというが、『PRO 2』から『PRO 3』への進化をどう実感しているのか。
「ここまでアップデートをしっかり感じられるのはすごいと思います。デザインや軽さ、フィット感もそうですが、『PRO 2』までは中足部だけに内蔵されていたカーボンがフルレングスになったことで、靴全体からしなりを感じられるようになりました。そして何よりミッドソールの幅が広がったためだと思いますが、走っていて安定感が大きく増した。これはマラソンを主戦場にする僕にとっては大きなことです」
そして最後に、“自分の走りを理解している男”が意外なことを言った。
「『PRO 3』になって『TAKUMI SEN』に近づいた気がします。足裏の感覚を使って、点ではなく面で地面をとらえられるというか。だからこそ、僕の走りにはあっています」