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北澤豪が53歳を超えてもなお東京マラソンに挑み続ける理由。
posted2022/04/25 10:30

©TOKYO MARATHON FOUNDATION
text by

細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Hirofumi Kamaya / Yuto Miyata
去る3月6日、元サッカー日本代表の北澤豪は、自身にとって3年ぶり7度目の東京マラソンを走った。
もちろん完走。タイムはネットで4時間20分35秒。53歳という年齢を考えれば「さすが」と手を叩きたくなる記録だが、レースから3日が過ぎても、本人は悔しそうに「うーん」と首を横に振った。
「いや、今回はね、自分の根性のなさにショックを受けているんですよ」
目標は4時間切り、勝負は30km過ぎから
32kmまでが「あまりにも順調」だったからこそ、いけるかもしれない、勝負したほうがいいと判断してペースを上げた。ところが、急に足が動かなくなった。目標の「4時間切り」が遠のいたことを悟り、闘争心が小さくしぼんだ。
「本当の勝負はそこからじゃないですか。最後まで粘って、どんなに苦しくてもあきらめずに走り切る。マラソンの醍醐味って、その勝負に勝って自分自身の底力を知れることにあると思うんです。現役時代の自分も、そういう勝負に勝てることを売りにしてきましたからね」
そう、“走ること”は現役時代の北澤の真骨頂だ。キャリア全盛期の1990年代、日本中にいた“小さいけれどよく走る選手”はほとんど漏れなく「北澤みたい」と例えられ、もちろん称賛された。つまり北澤は、「最後の最後まで誰よりも走るプレースタイル」で日本サッカー界にひとつの時代を作った。
「でもね、今回はそれをやらなかったんですよ。できなかった。目標を達成できないとわかって、不貞腐れて、あきらめたんです。最後の10kmは楽しさなんてなかった。完全にゼロ。だからもう、後悔しかない。今回は反省だらけの東京マラソンでしたね」