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[3人の対局者が明かす]魔術の残像。“羽生マジック”をかけられて
posted2022/01/21 07:02
![[3人の対局者が明かす]魔術の残像。“羽生マジック”をかけられて<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/-/img_8751bc24bf5218b0d8a9fce635478ed9321732.jpg)
text by

北條聡Satoshi Hojo
photograph by
Tadashi Shirasawa
見守る凡人には理解不能、同業の棋士ですら唖然茫然。七冠を独占した史上最強の男が指した至高の一手、「羽生マジック」に果たして“トリック”はあるのか? 魔法のような逆転劇の当事者となった3人に聞いた。
当事者たちにしか知り得ぬ世界がある。中終盤の形勢不利を覆す、羽生善治にしか指せない絶妙手――“羽生マジック”という棋界の奇怪は、対局者の目にどう映っていたのか。
プロ35年目。53歳となったベテランの中川大輔には、羽生と盤を挟んだ伝説の一局がある。2007年、第57回NHK杯2回戦だ。
中盤から形勢は中川に傾き、慎重に手を進めながら敵玉を追い詰めていく。勝利は目前。解説者の加藤一二三が終局を待たずに羽生の敗因を語り出すほどだった。
ところが、だ。羽生の指し手を見た加藤がしばしの沈黙の後、にわかに慌てふためく。▲2二銀――。
「あれ? 待てよ、あれ? おかしいですね。あれ、もしかして頓死? ひぇ~! これ、頓死かもしれません。なんと……。銀桂に歩が3つあって、ぴったり間に合いますから。これは大逆転ですね」
思わず吹き出しそうになる「迷」調子。ただ、加藤の読みは間違っていない。中川の頓死(自玉の詰みの見逃し)だった。
「加藤先生の解説がなかったら、私がここまで取り上げられることもなかったでしょう。見ている方々にとっては、面白い一局だったかもしれませんね。まぁ、やられたほうはたまったもんじゃないけれど」