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「自分の教科書作り」「メンバーから外される恐怖心」日本ラグビー界最高のスクラム職人を生んだ葛藤の日々とは 

text by

多羅正崇

多羅正崇Masataka Tara

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photograph byShiro Miyake

posted2022/01/07 08:00

「自分の教科書作り」「メンバーから外される恐怖心」日本ラグビー界最高のスクラム職人を生んだ葛藤の日々とは<Number Web> photograph by Shiro Miyake

チーム内の意思疎通を常にサポート

 次なる旅路はもう始まっている。'23年大会へ向けて、引き続きジャパンに携わる。ただし、スクラム強化だけが役割ではない。

「日本人のコーチは僕だけですし、潤滑油の役割もあると思っています」

 ジャパンは海外出身者が選手、スタッフともに約半数を占める。国籍を超えたワンチームを作るため、長谷川はチーム内の意思疎通を常にサポートしている。

「僕は英語が話せませんが、チームの方針などを知っていますし、ジェイミー(・ジョセフHC)との付き合いも長い。誤解があれば『そういう捉え方をしない方がいいよ』と説明しますし、スタッフに『ジェイミーがめっちゃ褒めてたで』と伝えたりもします。チームのためなら何でもやります」

 繊細な心で寄り添い、さりげない言葉で不安を和らげる。敬愛される理由は、卓越した指導、理論だけが理由ではない。

 本業のスクラム指導はさらに錬磨されている。長谷川は'21年、入念な準備をした上で、'19年大会以来2年ぶりの再始動となったジャパンの一次合宿に臨んだ。

「様々なチームから集まった選手が2年ぶりにスクラムを組んだわけですが、事前に全体と個別のミーティングをしたら、練習の一本目から完璧なスクラムが組めました」

徹底的に準備する職人は睡眠にもこだわる

 スクラムに手応えを得たジャパンは'21年秋に欧州遠征を行った。アイルランド戦でチームは55点差の大敗を喫したが、スクラムは優勢。砂地のピッチに苦心したポルトガル戦では、ホーム寄りのレフリングも見当に入れて「落とさない」スクラムを特訓。実際の試合で、見事に一度も崩れなかった。徹底的に準備する職人の技だった。

「アドリブが苦手なんです。準備したから大丈夫、という性格なのだと思います」

 入念な準備はプライベートにも及ぶ。選手時代からこだわってきた睡眠もそうだ。

「睡眠は一日の終わりではなく、次の日の準備だと思っています」

 長谷川には試行錯誤をしながら作り上げた就寝前のルーティンがある。そんな凝り性の職人が選んだ寝具が、マニフレックスのマットレスと枕であり、'12年から10年にわたり愛用している。

 日々の準備を繰り返す長谷川に、仕事の息抜きについて訊ねた。スクラムと選手への、尽きることのない愛情が返ってきた。

「選手が良いスクラムを組んでくれることが息抜きです」

 求道者の探求に終わりはない。

長谷川 慎Shin Hasegawa

1972年3月31日、京都府生まれ。東山高から中央大に進学。その後サントリーに入社し、'97年に日本代表デビューを果たす。プロップ、フッカーとして40キャップを重ね、'99年、2003年のW杯に出場。'07年に現役を引退後、サントリー、ヤマハ発動機などでコーチを務める。'16年、日本代表にスクラムコーチとして参加。'19年のW杯日本大会でのベスト8進出に貢献。日本代表アシスタントコーチとして'23年大会でのさらなる飛躍を目指す。

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