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広島の「勝利の方程式」に新しい風は吹くか。ヤクルトは若手先発陣の奮起が求められる。
posted2021/02/15 11:00

佐々岡監督の前でブルペン投球する広島のルーキー・栗林(左)。ヤクルトの2年目、奥川恭伸はローテ争いに割って入りたい。
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JERAセ・リーグ取材班JERA Central League Coverage
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KYODO
広島東洋カープ
JERAセ・リーグ2020:5位
文=前原淳
無観客のコザしんきんスタジアムに、新しい風が吹いている。
2018年までの3連覇から、広島東洋カープは2年続けてBクラスに終わった。2016年の黒田博樹、2018年の新井貴浩に続き、昨季は石原慶幸が現役を引退。広島の一時代は終幕し、新たな時代が始まろうとしている。
新しい時代には、新しい選手が現れる。
就任2年目の佐々岡真司監督もキャンプイン前日、「新しい力も必要になってくるだろう。そこは競争になる」と新戦力を含めたチーム内競争の激化がチーム力を底上げすると期待していた。
キャンプ序盤、最も存在感を発揮した“新戦力”は、選手ではなく、4年ぶりに復帰した河田雄祐ヘッドコーチだった。
朝から大きな声で選手に声をかける。佐々岡監督やコーチ陣とも積極的に話をする。
2日目の円陣で新ヘッドは選手たちにこう伝えた。
「ベースランニングで、ベースを回るときの体の角度を意識してくれ。まだ2日目だからちょっと角度をつける意識でいい。初日は(体の)慣らしもあったかもしれないけど、徐々に上げていこう」
ベースランニングを、単なるウォーミングアップの延長では終わらせない。第1クール最終日には、二塁から本塁を狙う走塁時の三塁ベースを蹴る位置や角度を細かく指示した。練習メニューには「帰塁」や「スライディング」まで盛り込まれている。
「タナキク」コンビ復活へ
選手が当然分かっているようなことでも、あえて細かく説明する。言葉で伝えることによって意識を高め、実践させることで理解を深め、細かく言うことで徹底を生む。
菊池涼介は河田ヘッド復帰に「若い選手は初めてで、そうなのかと思うところがいっぱいあると思う。僕らは思い返すというか、こういう野球をやっていたよなと懐かしかったり。いい影響、意識改革ができているんじゃないですか」と絶大な効果を感じている。
広島だけでなく、西武などでもチームに叩き込んできた機動力は、一つひとつの意識を徹底するところから始まる。3連覇したカープの下地にも、この凡事徹底があった。
野手陣は仕上がりの早さが目立つ。中でも田中広輔は、2019年の右膝手術の影響が完全に払拭されたようだ。動きに切れがあり、打撃でも土台がしっかり安定している。加えて、選手会長として声を出すなど盛り上げ役も担っている。
河田ヘッドは菊池涼介との「タナキク」コンビの復活に期待する。
「2人には『すべてに対して見本になって、ベンチはどういう気持ちでサインを出すのかというところを、改めて分かって欲しい』と。1日1回、チーム打撃のことを考える時間をつくってくれという話をした。彼らが1、2番に座ってくれればベスト。僕はそう思います」
昨年11月に右足首を手術し、二軍で調整中の西川龍馬も開幕には間に合う見通し。昨季リーグ2位のチーム打率を残した打線と、“新戦力”河田ヘッドによって磨かれた機動力によって、得点力はさらに増すだろう。