第97回箱根駅伝(2021)BACK NUMBER

駒澤大学、13年ぶりの総合優勝。「不思議な勝ち」を呼んだ、大八木監督の執念と4年生の献身。 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byYuki Suenaga

posted2021/01/07 11:00

駒澤大学、13年ぶりの総合優勝。「不思議な勝ち」を呼んだ、大八木監督の執念と4年生の献身。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

駒大のアンカー・石川は区間賞の走りで逆転優勝のフィニッシュテープを切った。

『区間賞に加えて、優勝も狙ってほしい』

 大八木監督が二兎を追う決心をしたのは、まさにこの辺りだった。

「15㎞を過ぎて、みるみるうちに前が見えてきて、そこからは『区間賞に加えて、優勝も狙ってほしい』と声をかけました」

 ヒートアップする大八木監督の檄は、前を走る運営管理車にも届いていた。創価大の指揮を執る、榎木和貴監督がこう振り返る。

「残り4kmとかですかね、後ろから声が聞こえてきました。じつは復路スタート前の芦ノ湖で、『大八木さんの声が後ろから聞こえてきたらやばいな』って冗談っぽく話していたんです。そうしたら本当にその通りになって(苦笑)。まさに大八木さんの執念ですか、そういうのが駒大の選手に伝わったのかなと思います」

 監督の檄にも背中を押され、石川はさらにペースを上げる。20.9km付近でついに創価大の選手をとらえると、渾身のラストスパートでもつれた勝負にケリをつけた。

主将の神戸「本当に良いチームができた」

 レースのハイライトはこの場面だったが、印象深かったのはフィニッシュ後のこんなシーンだった。

 両手を広げてフィニッシュテープを切った石川に、タオルを持った主将の神戸駿介(4年)が飛びつきながら顔を笑みでクシャクシャにした――。走ったメンバーの内、10人中9人が3年生以下というチーム構成だったが、下級生の活躍の陰に4年生の心配りがあったことを忘れるべきではないだろう。

 神戸は前回の箱根駅伝経験者で、力もある。だが今回は「同じくらいの実力であれば若い選手を使いたい」という大八木監督の方針で、当日の区間変更で石川と入れ替わっていた。

 きっと悔しさもあっただろうが、後輩の活躍を自分のことのように喜んだ。そして、レース後の会見ではこう言って前を向いた。

「今季は下級生が強いのはわかっていて、彼らが活躍できるような組織をつくろうと春先から4年生たちで話し合ってきました。生活面のルールを変えたり、意見が言い合える雰囲気作りを心がけてきて、本当に良いチームができたと思っています」

 神戸だけではない。世田谷の寮でレースを見守っていた部員全員が、13年ぶりとなる箱根駅伝の総合優勝を心から喜んだ。

 大八木監督も感謝の言葉を口にする。

「昔はひとりで色々とやっていた時期もありましたけど、今はマネージャーやスタッフ、そして神戸を中心とした4年生が助けてくれます。13年前の優勝ももちろん嬉しかったですけど、今回の優勝も最高に嬉しいですね」

 不思議の勝ちはあっても、不思議の負けはない。喜びにひたるのは、部員が待つ寮に帰ってからになるのだろう。監督の執念に、選手全員が応えた。まさにチームワークの大勝利だった。

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