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「きっかけはダルビッシュの復活?」プロ野球で今年すでに9人、トミー・ジョン手術“急増”の背景は?

posted2020/09/30 18:31

 
「きっかけはダルビッシュの復活?」プロ野球で今年すでに9人、トミー・ジョン手術“急増”の背景は?<Number Web> photograph by AFLO

2015年にトミー・ジョン手術を受けたカブスのダルビッシュ有

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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 そのニュースを見て素通りしてはいけないんじゃないかと思った。

 今季の開幕からローテーションに入り、7月25日の対西武戦でリーグ一番乗りとなる完封勝利を挙げていた千葉ロッテのホープ・種市篤暉が肘の靭帯を再建するトミー・ジョン手術を受けたというニュースを見たときだ。

 今年は、これでNPB9人目のトミー・ジョン手術者である。

 西野勇士(ロッテ)、東克樹(DeNA)、田島慎二(中日)、堀田賢慎(巨人)、石川直也(日本ハム)、戸田隆也(広島)、近藤大亮(オリックス)、森雄大(楽天)、そして種市である。田島を除けば全て20代だ。トミー・ジョン手術者の数は2018年、2019年を既に超え、20代の選手が軒並み肘にメスをいれている。

 もっとも、投手の肘の靭帯損傷、再建手術というケースは世界的な問題だ。アメリカでも、韓国でも、台湾でも珍しいことではない。今季のメジャーではシンダーガード(メッツ)、クリス・セール(レッドソックス)やバーランダー(アストロズ)らがメスを入れている。

 ただ、諸外国と日本とで大きく違っているのはこの怪我に対する問題意識だ。アメリカでは、投球数制限のガイドライン、ピッチスマートの導入など、とっくにこの問題への対策が講じられているが、日本では全くその動きがない。

 たしかに今年から高校野球で球数制限が導入された。しかし、これは甲子園における投球数について、野球界の外から批判を受けて日本高野連が重い腰を上げたものだ。トミー・ジョン手術者の多寡と関係ない。実は筆者は、5年ほど前、日本人メジャーリーガー、それも甲子園に出場したことがある投手にこの手術者が多いことから「高校野球に問題があるという意識はあるのか」という質問を当時の事務局長に投げかけたことはあったが、「いろいろやろうとしたけど、たち消えになった」と濁されたことがある。

トミー・ジョン手術の執刀医に聞く“急増の理由”

 今こそ、トミー・ジョン手術のニュースを素通りしてはいけないのではないか。

 かつてプロの若い選手がメスを入れるニュースなど聞くことはなかったが、なぜ、頻繁になったのだろうか。

 そう思った筆者は、先日、群馬県の慶友整形外科病院を訪れた。トミー・ジョン手術の執刀医でありながら、指導者などに野球による障害に関する啓蒙活動を行う古島弘三氏の意見を聞くためだった。当日は、偶然にも大瀬良大地の手術が行われた後だったが、古島医師は、忙しい時間の合間を縫って、一つ一つの謎解きをしていってくれた。前編では手術の増加要因について尋ね、後編ではトミー・ジョン手術に至る要因について聞いた。

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