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新井貴浩、現役最後の打席を語る。「自分らしいショートゴロだったかな」。

posted2020/10/15 11:01

 
新井貴浩、現役最後の打席を語る。「自分らしいショートゴロだったかな」。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2018年、現役引退を表明して臨んだSMBC日本シリーズで、新井貴浩氏は最後まで全力で戦った。

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

PROFILE

photograph by

Hideki Sugiyama

 新井貴浩にとって、2度目のSMBC日本シリーズは広島東洋カープが3連覇を果たした2018年だった。

 41歳になったこのシーズン、新井は9月に引退を表明していた。つまり、日本一決戦が野球人生、最後の舞台であった。

「最後の最後に日本一になってみんなで喜んで、笑って終わりたいという気持ちがあった。新聞のコメントでは、自分より若い選手たちが『少しでも長く新井さんと野球をやりたい』と言ってくれていて、自分もそう望んでいたから」

 新井はこの頃には、SMBC日本シリーズとはどういうものか、自分なりに描いていることがあった。

新井には新井の、魂の燃やし方があった

 初めて出場した2016年には、動かない足を引きずってマウンドに立とうとした黒田の背中を見た。

 2017年はクライマックス・シリーズで横浜DeNAベイスターズに敗れ、SMBC日本シリーズをテレビで見ることになってしまったが、その中で福岡ソフトバンクホークスの守護神デニス・サファテの姿に目を奪われた。ホークスが日本一に王手をかけたゲーム、その年にシーズン最多セーブ記録を樹立したストッパーは、1点ビハインドの9回表からマウンドに上がった。そこから3イニングを投げ抜いた。1イニングを投げ終えるたびに叫び、拳を上げるサファテの姿は、長丁場のペナントレースでは決して見られないものだった。

 それによって、ホークスの土壇場での同点劇、延長11回裏のサヨナラ勝ちを呼び込んだ。ホークスは日本一となり、サファテはMVPに輝いた。

「抑えてベンチに帰ってくる時、チームメイトを鼓舞している姿がすごく印象に残った。普通、クローザーが3イニング投げることはないし、外国人の投手だったら、なおさらなのに……。とにかく格好良かった」

 エースも守護神も、それぞれの立場で、異様なほどのアドレナリンを放出し、勝負の流れを揺り動かしていく。SMBC日本シリーズという特別な舞台がそうさせているのだということが、新井にはわかった。

 そして新井には新井の、魂の燃やし方があった。

 このシーズン、新井の役割は代打であった。自然とグラウンド上よりもベンチで過ごす時間が長くなる。チーム最年長として、戦うための空気をつくろうと考えていた。

「自分が引退するということでしんみりしてもらいたくない、気を遣わせたくない。シーズン中からずっとそう思っていた」

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