速さは、ひとつじゃない。BACK NUMBER

<連続インタビュー vol.1>
稲垣啓太「一歩目の速さ」

posted2020/02/25 19:00

 
<連続インタビュー vol.1>稲垣啓太「一歩目の速さ」<Number Web> photograph by Hirofumi Kamaya

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

PROFILE

photograph by

Hirofumi Kamaya

「50mをランでぶち抜くようなスピードは必要ありませんが、求められるのは5m、10mの短い距離をどれだけの瞬発力と速さでスタートできるのか。爆発力が重要になりますね。僕がランニングシューズに求めるのはクッション性。体重が重いので、関節への負担を和らげるためにも衝撃の吸収はポイントになります」

 ラグビーというスポーツにおいて、フォワードという一見パワーが重視されそうなポジションである稲垣に“速さ”への意識を尋ねると、間髪入れずにそんな答えが返ってきた。

「ラグビーをやってきて本当に良かった」

 日本代表プロップの稲垣啓太は、観衆であふれかえったトップリーグの試合場を見まわし、しみじみと感じていた。

「昨年のW杯で目標だったベスト8をクリアしたことで、ラグビーという競技が日本中に認知されたというのが本当に嬉しい。すべては勝利にこだわったがゆえの状況だと思っています。自国開催で結果が出なければ日本ラグビー界はこれ以上発展することはないと考えていましたからね」

 強い危機感を抱きながら出した成果は、確実に大きな波を生み出した。

「でも、ここで満足してはいけない。これをいかに継続することができるか。選手としてはグラウンド上で表現することしかできませんが、常に質の高いプレーを見せていきたい」

ラグビーで一番大切なのは「心」。

 W杯が変えたのは、ラグビーへの注目度だけではない。稲垣もまた選手としてレベルアップしたことを実感している。

「トップリーグが開幕して感じたのはマインドセットがスムーズになったことです。僕は自分の準備が100%できた状態になってから、まわりに対しなにかを言うようにしているのですが、きつい経験をしてきたからなのか、マインドセットのスピードが速くなり、経験が少なく緊張している若い選手たちに以前よりも早い時点で声掛けができるようになったんです」

 ラグビーは信頼や連携など、コミュニケーションがなによりも大事なスポーツである。どんなに身体能力が優れたラガーマンであっても、心の練り込みが足りなければ自分やチームを光らせることはできない。

「日本ではよく『心・技・体』と言いますが、僕はラグビーにおいて一番大切なのは『心』だと思っているんです。練習でたくさん技術を身に付けても、試合でその能力を発揮するにはマインドセットが重要になる。根性論や精神論と言われてしまうかもしれませんが、プレッシャーを想定して試合に挑むのと、準備が足りないまま緊張して萎縮して挑むのとでは雲泥の差があることは間違いありません。心を整えて能力をすべて出せる状況を作ることは重要です」

【次ページ】 追い求める短い距離の速さ。

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