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夫がスイスで遭難、4年後に遺体発見。
残された妻が語る「待つ」ことの意味。
【2019年上半期 陸上部門4位】 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph byMayumi Soma/Sho Fujimaki

posted2019/08/13 19:45

夫がスイスで遭難、4年後に遺体発見。残された妻が語る「待つ」ことの意味。【2019年上半期 陸上部門4位】<Number Web> photograph by Mayumi Soma/Sho Fujimaki

事故直前のレース中、笑顔をみせるプロトレイルランナー相馬剛。現在、この写真は遺影として自宅に飾られている。

発見されたことで、死が現実になる。

 4年の間に、自分が夫の死をきちんと受け入れていたのかどうか、真由美さんは今でもわからないという。

「相馬さんと親しかった方が『2度目の死亡宣告を受けたようだ』と言っていたんですけど、まさにその言葉どおりで。多くの人が『遺体が見つかってよかったですね』と仰って下さるけれど、本当によかったのかなと。発見されたことで、死が現実になってしまった。そのことで、子どももいるのに自分の気持ちが落ちてしまったらどうしようって考えてしまったんです」

 事故や災害で行方不明になった場合、法的には7年間は失踪宣告を行うことができない。相馬さんの場合、直後にピッケルなどが発見されていたことから、弁護士に相談して裁判所に手続きを行い、2017年に失踪宣告を受けていた。

 生前の相馬さんは自分の考えをよく文章で綴っていた。独立する際には、トレイルランナーとしては珍しく山岳ガイドの資格も取得しており、SNSで山に対する向き合い方や大会のあり方などの問題提起もしていた。

 家族にも弱みを見せず、人に頼るのが苦手だった相馬さんだが、レースを終えると、支援してくれている企業に必ず丁寧なお礼のメールを書いていた。2011年にハセツネで2度目の優勝を飾った後には、こんな文章を送っている。

<これからどんな未来が待っているのだろう? 未来を切り拓く力も、「今この時」にかかっている。目指すべき山の頂は見えない。しかし、山頂に向かって1本の険しいトレイルが延びている。どうやら、この道を進み続けるしかなさそうだ。>

「自分が死んだら」とよく話していた。

 真由美さんは夫の生き方をこう振り返る。

「相馬さんは、自宅でのんびり過ごす時間も少なくて、いつも『時間がない、時間がない』と言っていました。私と結婚してから、怪我以外でトレーニングをしなかった日は一日もなかったと思います」

 そして「もし自分が死んだら」という話もよくしていたという。

「地域の自治会でまとめ役をしていたので、お葬式のお手伝いが多かったんですね。そんなとき『もし俺が事故で体が動けなくなったり、病気で寝たきりになったりしたらすぐに離婚してくれていいから。若いうちに別の人生を歩んだ方がいい』とよく言っていました。そんな話をされると、私は泣いていたんですけれど……。いま思えば、どこかで、自分は長く生きないと感じていたのかもしれませんね」

【次ページ】 父の遺伝子を受け継ぐ長女。

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