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スポーツライター・生島淳氏の英国紀行。
「酒と食で綴る、ラグビーストーリー」

posted2019/06/04 11:00

 
スポーツライター・生島淳氏の英国紀行。「酒と食で綴る、ラグビーストーリー」<Number Web> photograph by AFLO

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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AFLO

サッカー、ラグビー、ゴルフなど様々なスポーツ発祥の地である英国。日本から遠く離れた彼の地には、長い歴史に育まれてきた酒とスポーツの物語があった。世界各地を取材で訪れているスポーツライター・生島淳が自身の体験を綴った。

 私のなかで、英国でのスポーツ観戦や取材の思い出は、お酒と分かちがたく結びついている。

 特に、スコットランドで飲んだスコッチは忘れられない。2018年5月、セント・アンドルーズとエディンバラへ取材旅行に出かけたが、仕事が終われば仲間と毎日食事を楽しみ、お酒を嗜んだ。

 なかでも思い出に残っているのが、過去に29回も全英オープンの舞台となったオールドコースを見下ろしながら飲んだ「ジョニーウォーカー」だ。

 夕暮れ時(ゴルフの仕事は朝が早く、早めに終わる)、オールドコースの傍に立つホテルのバーで、小さなグラスに注がれたスコッチは、五感のすべてを刺激してきた。夕陽に照らされたゴルフコースと、琥珀色が溶け合い、幻想的な色彩を演出する。それから手にしたグラスを鼻に近づけ、豊かな香りを楽しむ。遠くの席からはバーのざわめきが聞こえ、そしてゆっくりとスコッチを舌で味わう。眼下にはゴルファーたちがクラブを振っているのが見え、コースの周縁をジョギングしている人たちの姿が目に入ってきた。まさに、至福のときだった。

スポーツとともにスコッチとビール。

 この体験を通して、ウィスキーに俄然興味が湧き、いろいろな調べ物をした。スコッチには明確な定義があり、糖化から発酵、蒸留、熟成までスコットランドで行われたウィスキーのみがスコッチ・ウィスキーと呼ばれる。

 日本でもなじみの深い「ジョニーウォーカー」、「オールドパー」、「ホワイトホース」などのブランドは、大麦麦芽のみを原料とするモルト・ウィスキーと、複数の穀物を原料とするグレーン・ウィスキーをブレンドしたものだ。

 興味深いのは、スコッチはスコットランドの地理と深く結びついており、モルトはスコットランドの蒸留所の場所によって「ハイランド」、「アイラ」、「ローランド」、「キャンベルタウン」に分類される。私が東京でよく見る「マッカラン」や「グレンリベット」がハイランド産、「ボウモア」や「ラフロイグ」がアイラ産で、遠いスコットランドの土地から運ばれてきたのかと思うと、なにか感慨深いものがあり、この旅行からスコッチをより身近なものとして味わえるようになった。

 スコッチをひとりで味わうのも良いが、スポーツバーやパブで仲間とワイワイしながらスポーツ観戦するのも楽しい。いまからちょうど20年前のこと、1999年にウェールズを中心に開かれたラグビー・ワールドカップの観戦体験は、強烈な思い出として私の中に刻まれている。

 カーディフで行われた日本対ウェールズ戦の前に聞いたウェールズ国歌、「ランド・オブ・マイ・ファーザーズ」の大合唱には圧倒された。観客席で女性のソプラノとアルト、男性のテノールとバスの自然に生まれたハーモニーは素晴らしく、全身が粟立ったほどだった。

 そしてこの日は、私の人生でいちばんビールを飲んだ日として記憶されている。私はギネスのドラフトを大量に胃袋に落下させたのだが、酔った記憶がない。日本代表は敗れたものの、クリーミーなギネスの味は忘れがたく、「スポーツとお酒」を楽しんだ一日として記憶されているのだ。

【次ページ】 衝撃を受けた「へニーズ」の上品さ。

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