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井上尚弥と伊藤雅雪。
二人の王者が挑む“海外防衛”の壁。

posted2019/03/29 13:00

 
井上尚弥と伊藤雅雪。二人の王者が挑む“海外防衛”の壁。<Number Web> photograph by AFLO

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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AFLO

 当たり前ではなかったことが、今や当たり前になっている。

 プロボクシングの日本人世界チャンピオンが海外に出向いて防衛ロードを歩んでいく時代。5月18日(日本時間19日)にはWBA世界バンタム級王者・井上尚弥が、イギリスのグラスゴーに登場。IBF同級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とお互いのベルトを懸けてWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)準決勝に臨む。ともに無敗、ともに20代半ばの伸び盛り。事実上の決勝戦との呼び声も高い。

 その1週間後、25日(日本時間26日)にはWBO世界スーパーフェザー級王者・伊藤雅雪が2度目の防衛戦をアメリカ・フロリダ州キシミーで開催する。ロンドン五輪に出場したキャリアを持つジャメル・へリング(アメリカ)との海外防衛戦だ。

 海外防衛は、難しい。

 日本ボクシングの歴史自体が、そう語っている。1985年12月、WBC世界ジュニアバンタム(現・スーパーフライ)級王者の渡辺二郎が韓国で6度のダウンを奪って4度目の防衛を果たしたことが日本人ボクサー初の海外防衛。しかし以降は長らく途絶えることに。「中立地」ならまだしも「敵地」となれば、観衆からの敵意、憎悪を一身に受けてしまう。食事や環境の違いも、やはりデメリットになる。

突破口になった'09年の西岡利晃。

 突破口となったのが、2009年5月、WBC世界スーパーバンタム級王者・西岡利晃が強敵ジョニー・ゴンサレスをメキシコで破ったことだ。この快挙ののちに、ボンバーレフトの三浦隆司、海外を主戦場としていた亀田和毅らが外国人ボクサーを相手に「海外防衛」を果たしていくことになる。井上もその一人だ。

 ゴンサレスを敵地で破った西岡のインパクトは非常に大きかった。あの逆転TKOは、日本のボクシング史上に残る名シーンとなったのだから。

 3ラウンドの開始早々だった。ゴンサレスの右ストレートをかわしたその刹那、西岡は右に鋭く踏み込んだ。そしてもう1回。超高速の2段踏み込みから放たれた左ストレートが、がらあきのアゴにのめり込みゴンサレスの体を吹っ飛ばした。ゆらゆらと立ち上がってきた挑戦者を抱えたレフェリーが試合をストップ。静まり返る会場で、西岡は高々とその拳を突き上げた。メキシコの人気者を一発で倒した衝撃。メキシコのラジオ局のアナウンサーは畏怖をこめてこう叫んだ。「モンスターレフト!」と――。

【次ページ】 誰に勝ったかがより重要。

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