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<敬遠の夏に>
松井秀喜から逃げなかった男たち。
text by

日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKoji Asakura
posted2017/08/16 08:00

圧倒的な風格を持つ強打者を相手に、勝負した。全力の白球は弾き返されたが、選択に悔いはない。社会問題となった5連続敬遠が起きる直前の夏。ゴジラに挑んだ3人の投手が、怪物の痕跡を語る。
彫像のように立っていた。ヘルメットのつばの奥、鋭い視線は微動だにしない。
1992年7月28日、星稜高校3年生の松井秀喜に凝視されているのは、石川県立工業高校のエース、葛城武だ。
奇しくも25年後の同じ日付に現れた取材者に質問を重ねられ、遠い過去は閃光のように瞬時よみがえる。
はじめての対戦は2年秋だった。2-11の完敗は「むちゃくちゃに負けました」の感想として脳の奥に残っている。
浴びた痛打のどれが松井によるものなのかは判然としない。ただ悔しくて、スライダーの習得に励んだ記憶は鮮明だ。
葛城は右の本格派投手だった。「そんな速くないですよ」との本人の謙遜を、高校時代の同級生だという傍らの妻が補う。
「巷の噂では140km前半じゃないかって。県工の中では逸材だと言われてましたね」
戦前に1度だけ甲子園出場歴がある県工は、葛城の存在によって久々に強くなる。
3年春の県大会では決勝に勝ち進み、星稜を破って勝ち上がった金沢市立工業高校を下して優勝した。あるか、57年ぶりの甲子園。膨らむ学校の期待を一身に背負った。
「勝てる気はせんでいった」前年秋から季節は移り、最後の夏、曇天の石川県立野球場で星稜と再び相まみえた。
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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