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<ハンカチ伝説前夜>
斎藤佑樹を追い詰めた都立の意地。
text by

日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byNanae Suzuki
posted2016/07/11 08:00

エース村木公治はJR東日本で勤続6年目。早実戦で覚えた肘の違和感がいまだ残る。日常生活に支障はないが、ボールを投げようと構えると鈍い痛みがある。「今でもあの試合を思い出すと、悔しい気持ちが蘇ってくる」。
10年前の夏、空色のハンカチは涼やかなエースの象徴だった。
2006年8月21日、早稲田実業の斎藤佑樹は決勝再試合の末に駒大苫小牧を下し、甲子園の頂点に立った。最後の打者となった田中将大は泣いていない。敗者でさえ悔いよりも充足感の勝る、稀有な激闘だった。
早実が重ねた12連勝の緒戦のスコアは3-2。西東京大会2回戦、8回終了まで同点と互角に渡り合ったのは都立昭和だ。
のちの伝説などもちろん知る由もない。ただ勝機はたしかにあった。だから「都」の冠とともに戦った男たちの心には、振り返るたび天を仰ぐ悔しさがこみあげる。
'16年現在、都立高校の数は186。野球経験者は各校に分散し、指導者は数年単位で異動する。甲子園行きの可能性を秤にかけて有力選手が集中する強豪私立との実力差を埋めるのは、今も昔も容易ではない。
昭和が脚光を浴びたのは'04年夏のことだ。2回戦からの5連勝で準決勝に進出。日大三に1-3と惜敗したが、都立勢のベスト4はじつに9年ぶりの快挙だった。翌'05年夏は4回戦で日大鶴ヶ丘を撃破。しかし次戦でまたも日大三の壁にぶつかり、1-10と大敗を喫した。
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