Sports Graphic NumberBACK NUMBER

マツダスタジアムで感じる一体感。
そのお供に必要な「目」とは?

posted2018/08/02 11:00

 
マツダスタジアムで感じる一体感。そのお供に必要な「目」とは?<Number Web> photograph by KYODO

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

PROFILE

photograph by

KYODO

 あれは確か、2年前の春だったと思う。

 広島東洋カープの本拠地マツダスタジアムで、新井貴浩の取材をした。インタビュー前に一塁側のスタンドで撮影をすることになったのだが、その時、新井が巨体を客席に収めながら、そこからの景色に驚き、感動していたのをよく覚えている。

「普段、ここからグラウンドを見ることはないけえ。へえー……、こんな風に見えてるんやなあ」

 新井はしばらくそうやって、ファンの視点になってグラウンドを見つめていた。

 記者としてプロ野球のゲーム取材をしていると、試合前にはグラウンドに入れるし、試合中には記者席やスタンドから眺めることができる。両方の視点から見てみて言えることは、マツダスタジアムはグラウンドの選手とスタンドのファンがお互いに「近い」と感じられる球場だということだ。

 スタンドの傾斜がフラットなことも影響しているだろうし、寝ても冷めてもカープ、我らの市民球団という人々の熱さのせいもあるだろう。今年も開幕前に発売された年間シートはあっという間に売り切れたという。

新井貴浩が一生忘れられない景色。

 グラウンドとスタンドが心でつながっている。新井もそういう感覚がよくわかるという。

「試合が終わって帰ったあと、録画しておいた試合を見ると、俺が打席に立っている時、手を合わせて、祈ってくれている人がいる。だから苦しい時なんかは、そういう人の顔を思い浮かべて、打席に立つことがあるよ」

 そんな新井が一生、忘れられない景色として胸に焼き付けている打席がある。

 2015年3月27日、開幕戦。その年、阪神タイガースから、古巣のカープへと戻って来た新井にとっては本拠地マツダスタジアムで迎える初めての公式戦だった。

 7回、代打で復帰後の初打席がめぐってきた。新井はベンチを出る前から、ある覚悟を決めていたという。

「罵声を浴びても仕方ないと思っていた。どのツラ下げて帰ってきたんだ、と。

 でも、俺はこのチームが好きだから戻って来た。何を言われても仕方ないし、何を言われてもやろうと思っていた」

【次ページ】 「ボールなんて見えてないから」

1 2 NEXT

ページトップ