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アメリカを驚かせた井上尚弥の力。
世界ランカーが逃げることしか……。

posted2017/09/11 11:30

 
アメリカを驚かせた井上尚弥の力。世界ランカーが逃げることしか……。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

「強い相手と戦いたい」と願う井上尚弥は、戦意をなくした相手に明らかに失望していた。誰ならば彼の飢えを満たすことができるのだろうか。

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Yamaguchi

 WBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)が9日(日本時間10日)、米カリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センターで同級7位のアントニオ・ニエベス(米)に6回終了TKO勝ち。6度目の防衛に成功した。

 日本の“怪物”が“モンスター”に進化すべく臨んだアメリカ・デビュー戦。井上が世界的スターに向けて、大きな一歩を踏み出した。

 日本人世界チャンピオンの多くは、長らく国内で防衛戦を重ねてきた。なぜなら実力があり、知名度の高いチャンピオンほど日本で稼げるし、海外に出て“無名王者”としてあまり魅力的とは言えない報酬で、かつアウェイで戦うリスク(時差や気候、地元判定の可能性など)を冒して試合をする必要性はないからだ。

 それでもなお、アメリカに行く意味とは何なのだろうか。スポーツ専門局ESPNの名物ボクシング記者、ダン・ラファエル氏は次のように説明する。

「スターになるために必ずアメリカにくるべきだとは言いません。しかし、中南米、ヨーロッパ、アフリカ、アジアでも、やはり本物になるにはアメリカにいかなければならない、という考え方はあるようです。そして9日は井上にとって、そういう本物になるチャンスといえるでしょう」

三顧の礼で井上をアメリカへ招いた現地テレビ局。

 世界のボクサーがチャンスと大金を求め、マーケットの大きなアメリカを目指す。とはいえ、前述のように井上も国内でまずまず稼げるのだから、無理をする必要はない。しかし、井上の場合は他のボクサーと違う事情があった。

 井上はボクシング中継の大手テレビ局、HBOからオファーをもらった。同局のバイス・プレジデント、ピーター・ネルソン氏の言葉を紹介しよう。

「HBOとして井上選手にぜひこちらで試合をしてほしいと考えた。オファーを出し、彼らは私たちの希望にこたえてくれた」

 アメリカのリングでファイトした日本人ボクサーは少なからずいるが、いわば三顧の礼をもって迎え入れられたボクサーは他にいない。こうして井上は本場のリングに上がることになったのである。

【次ページ】 「相手に勝つ気がないと、試合自体が枯れちゃう」

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