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ロッテを「足」で勝たせる男。
荻野貴司という異能の新人とは? 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2010/04/12 12:40

ロッテを「足」で勝たせる男。荻野貴司という異能の新人とは?<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 昨シーズン、パ・リーグ5位に沈んだロッテの快進撃が続いている。週末に行われた西武との首位決戦も2勝1敗と勝ち越し、その差を3ゲームとしてリードしている。この時期での順位をどうこうの言うのは早計なのは分かっているが、とにかく、今年のロッテは一味違う戦いぶりを見せている。

 その象徴とも言えるのが、新人にして開幕から2番に抜擢されている荻野貴司の存在である。打率.357、打点9 得点13、盗塁8と絶好調で、西岡剛とともに、俊足1、2番コンビを形成。井口資仁、金泰均、大松尚逸から成る強力クリーンアップにつなぐ役割を果たしている。

 足、足、足……。

 そのプレースタイルを見れば、彼がどんな選手なのか一目瞭然である。

 リーグトップの8盗塁もさることながら、普通の送りバントでも、セーフティ気味に転がし、一塁まで駆け抜ける。外野の間に飛ぶ単打を放てば、あわよくば二塁を陥れようかのごとき勢いで、常に先の塁を狙う。自らの武器がどこにあるのかを、強く意識しているのがわかるのだ。

 一つの武器をもった選手がプロの世界でこれほど映えるとは……彼の活躍にはいつも驚かされるばかりだ。

努力する天才! 才能が無かった荻野貴が成長した背景。

 そもそも荻野貴の野球人生は、これまでそれほど華やかだったわけではない。

 奈良県出身の荻野貴は中学時代、ボーイズリーグの名門チーム・橿原コンドルに所属していたが、チームメートだった加治前竜一(巨人)とは対照的な存在だった。加治前が走・攻・守がそろうスーパースターだったのに対し、荻野貴は常に控えに甘んじた存在でしかなかった。のちに智弁学園―東海大を経て、先にプロ入りした加治前の経歴と比べて、その差は明らかだった。

 彼のポテンシャルが発揮され始めたのは高校に入ってから。奈良県下有数の進学校・郡山高に進んだ荻野貴は1年春からベンチ入りし、頭角を現す。2年春には遊撃手でレギュラーをつかみ、それからはチームの顔になった。郡山高の恩師で、元監督の森本達幸氏は言う。

「加治前君は中学時代からスーパースターで、荻野はそんなに目立つ選手ではありませんでした。荻野はうちに来た時は守備が上手く、足も速かったのですが、身体が小さいという印象でしたね。高校に入ってから彼自身が努力をし続け、パワーがついてきたことで、チームの中心になったんです」

 高校3年、夏の甲子園予選では3番・遊撃手のポイントゲッターとして、チームの準優勝に貢献。甲子園出場は果たせなかったものの、チームを引っ張る存在になっていたのである。ちなみに、準決勝では加治前のいる智弁学園を大差で破っている。高校卒業時には、ロッテ、阪神など複数球団がドラフトでの指名を窺ったほどで、本人が大学進学を希望したために実現することはなかったが、荻野貴の存在は在阪スカウトの中ではちょっとした話題となっていたのだ。

【次ページ】 大学時代の荻野貴がついに気づいた“自らの方向性”。

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