セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
インザーギのゴールはセリエAそのもの。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/05/31 00:00
一連の不正問題に始まり、スタジアムで起こった暴動事件と、波乱続きだった今シーズンもようやく終わりを告げた。インテルがスクデッドを勝ち取り、数多くのフットボールファンの裏をつくように、ミランが宿敵リバプールを轟沈して欧州王者に輝いた。ローマがイタリア杯で16季ぶり、8度目の優勝を飾れば、同じく首都ローマを拠点とするラツィオも来季チャンピオンズリーグ出場圏入りするなど、ビッククラブらが順当に上位を占めた。一見、セリエAは再びかつての輝きを取り戻そうとしているかに見える。
しかし、果たして本当にそうだろうか?
先のチャンピオンズリーグ決勝戦。スペクタクルと気迫において、私はリバプールに軍配があがったと断言したい。良いサッカーをしたチームが常に頂点に立つとは限らないのがサッカーであり、辛抱強さと幸運という点においてミランが宿敵を上回ったのは事実だ。しかし、このような勝ち方は、一度は通用しても二度目はないに等しいと思われる。豊富な運動量で「本来のサッカー」を最後まで繰り広げたリバプールには、感嘆の念を持たずにいられない。リバプールのようなチームが増えてこそ、イタリアのカルチョが活性化するような気がしてならない。
ここ数試合でのミランの快進撃の背景には、指揮官の知的采配があると前々回のコラムで触れた。イングランドスタイルの戦術を取り入れたことが成功につながったのだ。イングランドに浸透する中盤の選手が中心となった攻撃スタイルは、セリエAの他のクラブでも採用され、ローマをはじめ、ラツィオとエンポリがトップ不在の戦い方にスイッチしたことで、今シーズン大きな成果をあげた。2トップを志向したミランとインテルも、ストライカーの数を減らすことで勝者となり、さらに、点を取れる中盤の存在が、「セリエAはつまらない」という悪評を封じ込めるに至った。
また、イングランドを模範とする動きは単にプレースタイルだけに留まらない。
サポーターによる暴動事件を受け、セリエAは英国が実施するスチュアート制を導入し、安全管理に努め、イタリア政府はアンチフーリガン法、スタジアムの新安全法を公布して暴動の撲滅に注力した。
また、イタリアサッカー協会とプロ連盟は、イングランドにならって強豪クラブと弱小クラブの(国内)テレビ放映権料の差をなくす動きを見せた。これによって「リッチ」と「プアー」の間にあった理不尽な関係もなくせるとイタリアサッカー協会は考えている。つまりセリエAは、問題が起こるたびにイングランドにおけるフットボールのあり方に目を向け、真似るのである。
セリエAがイングランドに学ぶのは良いとして、果たしてピッチ上での“セリエAらしさ”は、どこに求めればよいのだろうか?
たとえばチャンピオンズリーグ決勝戦、インザーギの先制点を思い出して欲しい。ピルロのFKが彼の身体に当たって決まったあのゴールを。「ラッキー」という形容詞しか見つからない稀な得点シーンについて、インザーギはこう語った。
「かつてリーグでも3度決めている」
イングランドには存在しないこの「ラッキー」ゴール。セリエAらしさがあるとすれば、こういうことなのだろうか。