あまりにも極端な配球! 日本文理が仕掛けていた大胆な策。

詳説日本野球研究

あまりにも極端な配球!
日本文理が仕掛けていた大胆な策。

小関順二 = 文
text by Junji Koseki
photograph by Hideki Sugiyama

関連アスリート:
秋山拓巳菊池雄星今宮健太

 第91回夏の甲子園大会決勝は壮絶な打ち合いになり、中京大中京が10対9という僅差で日本文理を制した。この試合で注目したのは、日本文理のバッテリー、伊藤直輝―若林尚希による極端な配球である。

 たとえば、3回裏の1死満塁の場面では、左打者の伊藤隆比古に対して3球チェンジアップを続けて3球三振に打ち取っている。そして、5回裏の1死二、三塁の場面では同じ伊藤に対して初球ストレート(ボール球)を投げ、前の打席のチェンジアップ攻めのイメージを薄めてから、それ以降の変化球攻めの環境を整えるという巧妙さ。

 0-1以降の配球は8球中、チェンジアップが5球、スライダーが3球で、ストレートは1球もなかった。

 これが右打者の堂林翔太には一転してストレートが多くなる。3回裏の1死二塁の場面では5球すべてがストレート(四球)、そして5回裏の無死一塁の場面では4球すべてストレート(二塁打)という極端さである。

精神論より戦略論の時代に。

 この配球は10得点されているので結果だけ見れば成功していないが、6回の6失点は記録に表れないまずい守備が絡んだもので、実質的な総失点は6点くらいである。中京大中京と日本文理の戦力の差を考えればよく守り切ったと言っていいスコアで、バッテリーとベンチによるデータ収集が功を奏したと言っていい。

 細かなプレーでは、中京大中京が3回戦の長野日大戦で見せた一塁けん制が面白かった。局面は一、二塁。このとき二塁手と遊撃手が同時に素早い動きで二塁ベースに入り、一、二塁走者に二塁けん制がくると思わせるが、実際は二塁ではなく、投手が一塁に素早いけん制球を投げる。一塁走者は誘い出されなかったが、見ているほうがハッとした。

 高校野球は既に精神論が大手を振って歩く世界ではなく、細かなデータ収集や戦略が必要とされる世界になっているということだろう。

ドラフト的基準の今夏ベストナイン。

 最後に、今大会を総括する意味で、ベストナインを選出してみたい。

 投手は左右1人ずつ選び計10人とする。なお、選ぶ基準は今大会での活躍ではなく、ドラフト的基準、つまりプロ好みするかどうかを最優先した。

 右投手 秋山 拓巳(西条)……150kmを超える重い直球はドラフト1位候補
 左投手 菊池 雄星(花巻東)……155kmを記録した20年に1人とも言われる超高校級左腕
 捕 手 原口 文仁(帝京)……二塁送球1.8秒台の強肩。打撃は強打帝京の中軸
 一塁手 山神 貴雅(倉敷商)……柔らかい広角打法は1回戦負けでも光った
 二塁手 柏葉 康貴(花巻東)……メジャーリーガー級の遅い始動でボールを呼び込む
 三塁手 河合 完治(中京大中京)……今大会最も目立った打者。優勝チームの原動力
 遊撃手 今宮 健太(明豊)……投げては154km、打っては通算62本塁打の強打者
 外野手 伊藤隆比古(中京大中京)……菊池雄星を奈落の底に突き落とす右翼越え本塁打
 外野手 吉川 大幾(PL学園2年)……敗戦も県岐阜商戦での中越え本塁打は鮮烈
 外野手 西川 遥輝(智弁和歌山2年)……両手首故障でも結果を出し続ける天才打者

■関連コラム► 勝つべくして勝った中京大中京。「一球一打」への異常な集中力。
► 勝者も敗者もハッピーだった!? 中京大中京の優勝にみる“神の手”。

(更新日:2009年8月26日)

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筆者プロフィール

小関順二

1952年神奈川県生まれ。日本大学芸術学部卒。1988年ドラフト会議倶楽部を創設し、模擬ドラフトで注目を集める。Numberほか雑誌「週刊現代」にも野球コラムを連載中。『プロ野球 問題だらけの12球団』(草思社)はシリーズ10年目を迎えた。他に『プロ野球のサムライたち』(文春新書)、『プロ野球スカウティングレポート』(アスペクト)など著書多数。

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